今日のご相談公開日

【今日のご相談】治験支援の会社:治験の手順書から必要な情報をAIで抜き出したい

結論

依頼元ごとに形式が違う長い治験の手順書(プロトコル)から、現場の担当者に必要な情報だけを抜き出す作業は、今回は「難しい」とお答えしました。手順書の中に複数の関係者の手順が混ざっており、どこを読めばよいかという判断の基準を言葉にできる人が社内にいないため、AIに渡すルールを決められないからです。当社側も治験の専門知識が足りていなかったことを認めており、AIが苦手な作業の実例としてご紹介します。

株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、治験支援の会社からいただいた「治験の手順書から必要な情報をAIで抜き出したい」というご相談について解説します。今回ご相談いただいたのは、医療の分野で治験の支援を行い、治験コーディネーター(治験が手順どおりに進むよう現場を支える専門職。CRCと呼ばれます)が働いている会社です。AIの具体的な使い道はまだなく、まず何ができるのかを知りたいという段階でした。社内では一部の人が個人でAIを使っている程度で、会社としての方針はありません。この記事では、当社が「難しい」と判断した理由と、こちら側の反省点も含めて正直にお伝えします。治験の具体的な内容や、患者に関する情報には触れていません。

ご相談の内容:長い手順書を毎回読み解く負担が大きい

ご相談いただいたのは、治験の支援を行う医療分野の会社です。規模は伺っていません。

治験では、治験ごとに手順書(プロトコル)が用意されます。現場の治験コーディネーターは、この手順書を読み解き、自分たちに必要な情報を拾い出して仕事を進めます。ご相談の背景には、次のような負担がありました。

  • 手順書は1つで100ページ前後になることもあり、読み解くのに時間がかかる
  • 依頼元ごとに手順書の形式が違い、同じ情報でも書かれている場所や書き方が異なる
  • 治験コーディネーターは、書類の作成やスケジュールの調整にも多くの時間を使っている

一方で、AIで何をしたいかはまだ固まっておらず、「何ができるのかを知りたい」というご相談でした。

「何ができるかを知りたい」段階のご相談で起きやすいこと

AIの使い道がまだ決まっていない段階のご相談では、相談する側も、提案する側も、ほかの会社でうまくいった例をもとに話を進めがちです。わかりやすい反面、業務の細かな制約が後回しになり、話がかみ合わなくなることがあります。

今回もその典型でした。当社はほかの業界での事例やデモを中心にご紹介しましたが、治験の現場ならではの制約を十分に伺う前に提案を進めてしまいました。結果として、手順書の読み解きは「難しい」、書類作成は「前提が合わない」という結論になりました。この経験は、同じように使い道を探している会社にとっても参考になると考え、そのままお伝えします。

AIでやりたいこと:手順書からの情報の抜き出しと、書類・日程の効率化

ご相談の中で挙がった「AIでやりたいこと」は次の2つです。

  1. 依頼元ごとに形式が違う長い手順書から、治験コーディネーターに必要な情報を自動で抜き出したい
  2. 治験コーディネーターの書類作成やスケジュール調整を効率化したい(どちらを優先するかは未定)

当社の回答:できること・工夫が要ること・難しいこと

今回は、ご要望に対して「できる」とはっきりお答えできたものがありませんでした。判断は次のとおりです。

やりたいこと判定理由・条件
手順書から治験コーディネーターに必要な情報を抜き出す×難しい手順書の中に「治験コーディネーター」という言葉が出てこず、複数の関係者の手順が混ざっています。どこを読めば必要な情報かという判断を言葉にできる人が社内におらず、AIに渡すルールを決められません。また手順書は毎回新しいため、資料に目印(タグ)を付けて検索させる方法も手間に見合いません
書類作成・スケジュール調整の効率化△工夫すればできる当社は会話の録音から書類を作る仕組みをデモでお見せしましたが、業務の中で録音をすること自体ができず、データの入力も別のサービスを使う必要があるなど、前提が実際の業務と合いませんでした。業務の流れを詳しく伺ったうえで、改めて考える必要があります

当社側の反省点

今回、当社は治験の業界の専門知識が足りていなかったことを認めています。また、別の業界でうまくいった「録音から書類を作る」デモをそのまま持ち込みましたが、実際の業務では録音ができないなど、前提が合いませんでした。デモを用意する前に、業務の制約をもっと詳しく伺うべきだったと考えています。

進め方の提案:AIの前に「判断の基準」を言葉にする

今回のようなケースで、当社がおすすめする進め方は次のとおりです。

  1. 読み解きの手順を書き出す:経験のある担当者が手順書をどう読み、どこを拾っているかを、例を使って書き出す
  2. 抜き出す項目を決める:必要な情報の一覧(項目と、その情報がどんな形で書かれているか)を作る
  3. 小さく試す:過去の手順書をいくつか使い、AIが一覧の項目を拾えるかを試し、人の結果と比べる
  4. 業務の制約を先に確認する:録音できるか、どのサービスに入力するかなど、実際の業務の前提を整理してから、書類作成や日程調整の仕組みを考える
  5. 社内のAIの使い方を整える:会社としての方針がない段階では、まず安全な使い方のルールを決める

社内の資料を読み込ませて質問に答えさせる仕組み(チャットボット)の事例もご紹介しましたが、毎回新しい手順書を読む業務には、そのままでは合わない可能性があります。

同じ悩みを持つ会社へ:AIが苦手なのは「言葉にできない判断」

今回のご相談は、AIが苦手な作業がはっきり表れた例です。ほかの業界にも当てはまる教訓は次のとおりです。

  • AIは、何を探せばよいかを言葉で説明できる作業は得意だが、ベテランが経験で判断している作業は、その判断を言葉にしないと任せられない
  • 専門知識が必要な文書の解釈は、AIを作る側にもその分野の知識が要る
  • 毎回まったく新しい資料を読む作業は、資料を事前に整理しておく方法が使いにくい
  • ほかの業界でうまくいった仕組みでも、業務の前提(録音できるか、入力先はどこか)が違えば使えない
  • 医療の分野では、特に慎重に扱うべき個人情報が関わるため、AIに入れる情報の範囲を先に決める必要がある

その作業をAIに任せられるかのチェックリスト

  • 経験のある担当者が、判断の手順を言葉や例で説明できるか
  • 抜き出したい情報の項目を一覧にできるか
  • 正解の例(人が作った結果)を比べるために用意できるか
  • 録音や外部サービスの利用など、業務上の制約を整理したか
  • AIに入れてよい情報と、入れてはいけない情報を決めているか

よくある質問

長い専門文書から必要な情報をAIで抜き出すことはできますか?

何を探せばよいかを言葉で説明できる場合はできます。今回のように判断の基準を言葉にできる人がいない場合は、AIに渡すルールを決められず、難しくなります。

文書の形式が毎回違っても、AIは対応できますか?

探す項目がはっきりしていれば、形式の違いにはある程度対応できます。ただし毎回まったく新しい文書を読む作業では、資料を事前に整理しておく方法は手間に見合わないことがあります。

AIに任せられない作業は、どう進めればよいですか?

まず経験のある担当者の判断の手順を、例を使って書き出すことから始めます。言葉にできた部分から、小さく試していくのが現実的です。

医療分野の情報をAIに入れても大丈夫ですか?

特に慎重に扱うべき個人情報が含まれるため、入力したデータが学習に使われない法人向けのサービスを選び、入れてよい情報の範囲を先に決める必要があります。関係する法令や指針は、最新の公式情報で確認してください。

執筆・監修

吉村 聡一郎の写真

株式会社MEDISITE 執行役員/AI事業責任者

吉村 聡一郎

株式会社アシロ(東証グロース市場)で営業統括責任者・新規事業開発責任者を経験。2022年、株式会社MEDISITEの創業メンバーとして参画し、AI事業・営業支援事業を統括。

  • AI導入・AI研修
  • 営業・新規事業

コラム一覧へ戻る