AIの使い方が一部の社員だけのものになるのを防ぐには——指示文・手順・確認ルールの共有と、担当が替わっても回る引き継ぎ表
結論
AIの使い方が一部の社員だけのものになるのを防ぐには、「指示文(プロンプト)」「作業の手順」「確認ルール」の3点を、業務ごとに1枚の決まった型にまとめて社内の1か所に置き、誰がいつ直すかという更新の決まりを先に決めておくことです。そのうえで、担当が替わるときに使う引き継ぎ表を用意しておけば、AIを使った業務が特定の人に頼らずに回り続けます。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、AIの使い方が一部の社員だけのもの(属人化)になるのを防ぐ方法について解説します。AIを使い始めてしばらくすると、「あの人に頼めば早いが、ほかの人はやり方がわからない」という状態になりがちです。使い方がうまい社員が休んだり異動したりした途端、AIを使った業務が止まってしまう。仕上がりの質が人によって違う。そんな悩みを管理職の方から伺うことは少なくありません。この記事では、AIの使い方を個人のものにせず会社のものにするために、何を共有するか、どこにどんな型で置くか、どう更新し続けるか、担当が替わるときに何を引き継ぐかを、AI社員を提供している当社の立場から説明します。
AIの使い方が属人化すると、担当者の不在や異動で業務が止まる
属人化とは、ある仕事のやり方が特定の人の頭の中や手元にしかなく、その人がいないと回らない状態のことです。AIの使い方は、とくに属人化しやすい性質があります。指示文の細かな言い回しや、出てきた結果のどこを直しているかは、本人も意識しないまま身についていることが多いからです。
属人化したまま使い続けると、次のようなことが起きやすくなります。
- 担当者が休むと止まる:ほかの人が同じ指示文を知らず、結局手作業に戻ってしまう
- 仕上がりの質がばらつく:人によって指示の出し方が違い、同じ書類でも出来がそろわない
- 確認が抜ける:使い慣れた人は「ここは間違えやすい」と知っていて直しているが、その注意点がほかの人に伝わっていない
- 退職や異動でノウハウが消える:うまくいった工夫が、引き継ぎの書類に何も残らない
- 管理職から中身が見えない:AIで何をどう処理しているのかがわからず、問題が起きたときに原因を追えない
AIを入れた目的が「担当者に頼りきりの業務を減らすこと」だった場合でも、使い方が属人化すれば、頼る相手が「その業務の担当者」から「AIを使える人」に替わっただけになってしまいます。だからこそ、AIの使い方は早い段階から会社の共有の財産として残しておく必要があります。
共有するのは「指示文・手順・確認ルール」の3点セット
AIの使い方を共有するとき、指示文(プロンプト)だけを集めて終わりにしてしまう会社がよくあります。しかし、指示文だけでは、ほかの人が同じ結果を出すことはできません。どの材料を用意し、どの順番で作業し、出てきた結果のどこを確かめるのかまでそろって、はじめて誰でも同じように使えるようになります。
共有すべきものは、次の3点セットです。
| 共有するもの | 中身 | 残っていないと起きること |
|---|---|---|
| 指示文(プロンプト) | AIに渡す指示の全文。目的、前提、出力の形、守ってほしい条件を含める | 人によって指示がばらばらになり、仕上がりがそろわない |
| 作業の手順 | 材料の集め方、AIに渡すまでの準備、結果を貼り付ける先、次に回す相手 | 指示文があっても、どこから何を持ってくればよいかわからない |
| 確認ルール | 結果のどこを、誰が、いつ確かめるか。間違えやすい点と、その直し方 | 使い慣れた人だけが気づいていた間違いが、そのまま外に出る |
このうち、いちばん抜けやすいのが確認ルールです。使い慣れた人ほど、「日付は必ず見直す」「金額は元の書類と照らし合わせる」といった確認を無意識に行っています。共有の際は、本人に「結果を見て、いつもどこを直していますか」と聞き、答えをそのまま書き出してもらうと漏れが少なくなります。
ポイント
うまくいかなかった指示文や、AIに任せないことにした作業も一緒に残しておくと役に立ちます。「なぜこの書き方にしているのか」がわかると、次の担当者が同じ失敗をくり返さずにすみます。
共有する場所は1か所、型は「1業務1枚」にそろえる
共有がうまくいかない原因の多くは、置き場所がばらばらなことです。ある人は個人のメモに、ある人はチャットの過去のやり取りに、ある人は自分のパソコンのファイルに残している。これでは、いざ必要なときに見つかりません。
置き場所の決め方
- 社内の共有フォルダか、社内で使っている共有の場所に1か所だけつくる:個人のメモやチャットに残したものは、そこに移すまで「共有した」とは扱わない
- 業務ごとにファイルを分ける:部署別ではなく「請求書の発行」「問い合わせへの返信」のように業務の名前で分けると、探しやすくなる
- 誰でも見られるが、直せる人は決めておく:誰でも書き換えられると、知らないうちに中身が変わってしまう
1業務1枚の型
中身は、業務ごとに次の項目を同じ順番で書く「1業務1枚」の型にそろえます。型が決まっていると、書く人も迷わず、読む人もどこを見ればよいかがすぐにわかります。
- 業務の名前と目的:何のためにAIを使っているのか
- 担当者と代わりの担当者:正の担当と、休んだときに代わる人
- 使う材料:どのファイルやメールから、何を持ってくるか
- 作業の手順:準備からAIに渡すまで、渡したあとの流れ
- 指示文の全文:書き換えてよい部分と、変えてはいけない部分を分けて書く
- 確認ルール:見る点、確認する人、間違えやすい例
- 入力してはいけない情報:個人情報や社外秘の扱いなど、社内ルールに沿った注意
- 更新の記録:いつ、誰が、何を変えたか
最初から全部の項目を完璧に埋める必要はありません。まずは指示文と確認ルールだけでも1か所にそろえ、空いている項目は使いながら書き足していけば十分です。
型を書くときのコツ
- 実際に使った材料と結果の見本を1組つける:「この材料を渡すと、こういう結果が出る」という見本があると、新しい人が自分の結果と見比べて正しくできたかを判断できる
- 社内でしか通じない言葉に一言説明を足す:略語や部署内の呼び名は、異動してきた人や新しく入った人には伝わらない
- 指示文の中で、毎回変える部分に印をつける:取引先の名前や日付など、その都度入れ替える部分をかっこで囲んでおくと、消してはいけない部分を誤って消すことがなくなる
- 長い説明より短い箇条書きにする:作業中に横に開いて見ながら進められる長さにしておくと、実際に読まれる
このように、型は「書いた人が読むもの」ではなく「初めてその業務を担当する人が読むもの」として書くのがポイントです。書いた本人にとっては当たり前のことほど、書き残す価値があります。
更新の決まりを先に決め、古い指示文が使われ続けるのを防ぐ
共有した内容は、放っておくとすぐに古くなります。取引先の書式が変わった、社内のルールが変わった、AIの出し方のくせが変わった。こうした変化に合わせて直されないと、古い指示文を使った人だけが間違った結果を出すことになり、結局「詳しい人に聞いたほうが早い」という状態に戻ってしまいます。
そこで、共有を始めるときに、次のような更新の決まりを決めておきます。
更新の決まりで決めておくこと
- 業務ごとに「直す役の人」を1名決めている(その人以外は直さず、気づいたことを伝える)
- 直したときは、更新の記録に日付・直した人・変えた中身を1行で残す
- 古い指示文は消さずに、使わないものとして下に残している
- 月に1回など、決まった時期に中身が今の業務に合っているかを見直している
- 使っていて気づいた間違いや改善案を伝える先が決まっている
- 大きく変えたときは、その業務を使う人全員に知らせている
直す役の人は、その業務をいちばんよく知っている現場の担当者が向いています。仕組みそのものを直す作業が必要な場合は、外部の依頼先に任せ、直した結果を共有の型に書き戻してもらう流れにしておくと、内容が常に今の状態に保たれます。
ポイント
見直しの時期は、カレンダーに予定として入れておくのが確実です。「気づいたら直す」だけでは、忙しい時期に後回しになり、古い内容のまま使われ続けてしまいます。
担当が替わっても回るように、引き継ぎ表をつくっておく
1業務1枚の型があっても、担当者が替わるときに「読んでおいて」と渡すだけでは、うまく引き継げないことがあります。書いてあることと、実際に手を動かせることの間には差があるからです。担当の交代や長い休みに備えて、次のような引き継ぎ表を使い、一つずつ確かめながら渡すことをおすすめします。
| 引き継ぐ項目 | 前の担当者がすること | 新しい担当者が確かめること |
|---|---|---|
| 1業務1枚の型 | 最新の状態に直し、置き場所を伝える | 型を読み、わからない言葉や手順に印をつける |
| 指示文 | 書き換えてよい部分とその理由を説明する | 実際の材料で一度動かし、同じ結果が出るかを見る |
| 確認ルール | 過去に起きた間違いの例を見せる | 自分で確認し、前の担当者に見落としがないかを見てもらう |
| 例外の扱い | AIに任せず手作業にしているケースを伝える | 例外が来たときに誰に相談するかを確かめる |
| 連絡先 | 不具合のときの社内の窓口と外部の依頼先を伝える | 連絡先を自分の手元にも控える |
| 並行して作業する期間 | 数回分は横について一緒に作業する | 最後の回は一人で行い、結果を見てもらう |
引き継ぎで最も大切なのは、新しい担当者が一人で一度やってみて、前の担当者に結果を見てもらうことです。そこで出てきた疑問や迷った点は、そのまま1業務1枚の型に書き足します。こうすると、引き継ぎのたびに型が少しずつわかりやすくなっていきます。
退職による引き継ぎの場合は、時間が限られることが多いため、退職が決まってから慌てて書き出すのではなく、ふだんから型を最新にしておくことが一番の備えになります。
属人化を防ぐ進め方と、管理職が担う役割
最後に、AIの使い方を会社のものにしていくまでの流れをまとめます。
- 今AIを使っている業務と人を書き出す:誰が、どの業務で、どのくらいの頻度で使っているかを一覧にする
- 置き場所を1か所決める:社内の共有の場所に、業務ごとのファイルを置く場所をつくる
- 使い慣れた人から3点セットを書き出してもらう:指示文・手順・確認ルールを、1業務1枚の型に沿って書く
- 別の人が型だけを見て試す:書いた本人以外がやってみて、つまずいた点を書き足す
- 直す役の人と見直しの時期を決める:更新の決まりを型の最後に書いておく
- 代わりの担当者を決め、引き継ぎ表で一度練習する:休みや異動の前に、代わりの人が一人で回せるか確かめておく
このとき管理職が担うのは、自分で型を書くことではなく、書き出す時間を業務として認め、型ができているかを定期的に確かめることです。使い方がうまい社員ほど忙しく、共有の作業は後回しになりがちです。共有を個人の善意に頼らず、仕事の一部として位置づけることが、属人化を防ぐいちばんの近道になります。
当社のAI社員は、業務の流れに合わせた仕組みを外部でつくり、指示文や確認の手順を含めて保守まで引き受ける形で運用します。担当者が替わっても仕組みそのものは変わらずに動き、直したい点があれば月額の中で何度でもご相談いただけます(初期費用+月5万円、初期費用はヒアリング後にお見積もり)。「AIの使い方が一部の人に偏っている」と感じたら、どの業務から型にするかの整理も含めて、お気軽に当社へご相談ください。
よくある質問
指示文(プロンプト)だけを社内で共有すれば十分ですか?
十分ではありません。指示文に加えて、材料の集め方などの作業の手順と、結果のどこを誰が確かめるかという確認ルールまでそろえて、はじめて誰でも同じように使えるようになります。
AIの使い方を共有する場所はどこがよいですか?
社内の共有フォルダなど、全員が見られる場所を1か所だけ決め、業務ごとにファイルを分けるのがおすすめです。個人のメモやチャットに残っているものは、そこに移すまで共有したことにしないと決めておくと散らばりません。
共有した指示文は誰が直せばよいですか?
業務ごとに直す役の人を1名決め、その人以外は気づいたことを伝える形にします。直したときは日付・直した人・変えた中身を記録に残しておくと、あとから経緯をたどれます。
担当者が替わるとき、引き継ぎで最も大切なことは何ですか?
新しい担当者が型を見ながら一人で一度作業し、前の担当者に結果を確かめてもらうことです。そこで出た疑問を型に書き足すと、次の引き継ぎがさらに楽になります。