業務別の自動化公開日

AIは経理業務にどう使えるか——経理の仕事全体から見る、AIに任せやすい作業・任せにくい判断と始める順番

結論

AIは経理業務のうち「書類を読み取る」「データ同士を照らし合わせる」「仕訳や連絡文の下書きを作る」作業に向いており、承認・支払いの実行・税務の判断・例外的な取引の扱いといった最終判断は人が受け持つ形で使うのが基本です。始める順番は、件数が多く、間違えても社内で気づきやすい作業(社内からの問い合わせ対応や経費精算)から入り、取引先やお金の出入りに直接関わる作業(請求書の発行・入金消込)、最後にそれらのデータを使う月次決算へと広げるのが失敗しにくい進め方です。

株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、経理業務全体(請求書の受け取り・発行、経費精算、入金消込、仕訳、月次決算、問い合わせ対応)でのAIの使い方と、任せやすさ・始める順番について解説します。「AI 経理」で調べると、請求書の読み取り、経費精算、仕訳の自動化など、たくさんの話が出てきます。ただ、経理の責任者として知りたいのは、個々の便利な使い方よりも「うちの経理の仕事のうち、どこからAIに任せればよいのか」「どこまで任せてよくて、どこからは人が持つべきか」ではないでしょうか。経理は少人数で回していることが多く、月末・月初に作業が集中し、担当者が休むと止まってしまいやすい部署です。一方で、お金と税金に関わるため、間違いが許されにくい仕事でもあります。この記事では、経理の仕事を6つに分けて見渡し、それぞれAIに任せやすい作業・任せにくい作業を整理したうえで、始める順番と、始める前に経理責任者が決めておくことを説明します。個別の業務の細かな手順は、それぞれの記事に譲り、ここでは全体像と優先順位に絞ってお伝えします。

経理の仕事を6つに分けると、AIに向くのは「読む・照らし合わせる・下書きする」作業

経理の仕事は、細かく見ると種類が多いものの、AIの使い方という目で見ると、次の6つに分けて考えるとわかりやすくなります。それぞれの仕事の中に「AIに任せやすい作業」と「人が残す作業」が混ざっている点が大切です。

経理の仕事時間がかかっている作業AIに任せやすいこと人が残すこと任せやすさ
請求書の受け取りPDFや紙の請求書の入力、発注との照合金額・期日の読み取り、発注や納品記録との突き合わせ食い違いの判断、支払いの承認高い
請求書の発行売上データの集計、請求書の作成と送付データの集約、請求書の下書き、送付の準備金額と送付先の確認、送付の承認中くらい
経費精算領収書の入力、規程との照合、差し戻し読み取り、科目の案、規程との照合、不足の連絡文承認、規程にない例外の判断高い
入金消込入金明細と請求の突き合わせどの請求への入金かの候補づけ、ずれの仕分け候補の確定、未入金先への対応の判断中くらい
仕訳勘定科目の判断と入力過去の仕訳に沿った科目・摘要の案初めての取引や判断が分かれる取引の処理中くらい
月次決算締めの作業、残高の確認、報告資料づくり残高の突き合わせ、前月比の変化の指摘、資料の下書き締めの判断、数字の最終確認、経営への説明部分的

このほかに、社員からの「この経費は落ちますか」「支払いはいつになりますか」といった社内の問い合わせ対応も、経理の時間を細かく奪っている仕事です。規程や支払いの予定に沿って答えられる質問は、AIに任せやすい部類に入ります。

表を見ると、どの仕事でも、AIが受け持つのは「書類を読む」「データ同士を照らし合わせる」「下書きを作る」の3つに集まっていることがわかります。経理のAI活用は、仕事を丸ごと渡すのではなく、仕事の中のこの3種類の作業を抜き出して任せる、と考えるのが実務に合っています。

AIに任せやすい作業と任せにくい作業の境目は「ルールが書けるか」と「間違いに気づけるか」

同じ経理の仕事でも、AIに任せられるかどうかは、作業の性質で決まります。次の4つの問いで見分けると、判断がぶれにくくなります。

  1. やり方をルールとして書き出せるか:「この取引先からの請求は、発注番号と金額が合えば一致」のように、文章にできる作業は任せやすい
  2. 元になるデータがあるか:請求書のPDF、入金明細、過去の仕訳など、AIが読める材料がそろっている作業は任せやすい
  3. 間違えたときに人が気づけるか:照合の結果や下書きを人が確かめる段階がある作業は任せやすい
  4. その場の判断や交渉が必要か:取引先との条件の調整や、初めての取引の扱いを決める作業は任せにくい
区分具体的な作業理由
AIに任せやすい請求書・領収書の読み取り、発注や入金との照合、科目の案、連絡文や資料の下書き、規程に沿った社内の質問への回答ルールと材料があり、結果を人が確かめられる
AIが案を出し、人が決める仕訳の確定、消込の確定、月次の締め、未入金先への連絡型はあるが、例外があり、お金や取引先に影響する
人が受け持つ支払いの承認と実行、税務上の判断、会計方針の決定、取引先との交渉、経営への説明責任が伴い、状況に応じた判断が必要

ポイント

支払いの実行や承認の権限は、AIに持たせないのが基本です。AIは「支払予定の下書きを作る」「承認する人に確認を回す」までにとどめ、お金を動かす最後のひと押しは必ず人が行う形にしておきます。

税務の判断はAIに任せきりにしない

消費税の扱い、インボイス制度(適格請求書の決まり)の要件の確認、電子帳簿保存法に沿った保存のしかたなど、税務や制度に関わる判断は、AIが一般的な説明をしてくれることはあっても、自社の取引に当てはめた最終判断は人が行う必要があります。制度は改正されることがあり、会社ごとの事情でも扱いが変わる場合があります。最新の情報は国税庁などの公式サイトや、顧問税理士に確認してください。

始める順番は「件数が多く、社内で気づける作業」から「お金の出入り」、最後に「月次決算」へ

経理にAIを入れるとき、いきなり月次決算や仕訳全体の自動化から始めると、例外が多くてつまずきやすくなります。次の順番で、手前の段階で整えたデータや確認の手順を次の段階に引き継ぎながら広げていくのがおすすめです。

段階対象の仕事この段階から始める理由くわしい進め方の記事
1社内からの問い合わせ対応、経費精算件数が多く、間違えても社内で気づいて直せる。社員にもAIの効果が見えやすい経費精算・領収書の入力の記事、経費精算のルールへの質問を減らす記事
2取引先から届く請求書の処理件数が多く、発注や納品の記録と照らし合わせる型が作りやすい取引先から届く請求書の処理の記事
3請求書の発行、入金消込取引先とお金に直接関わるため、1・2で確認の手順に慣れてから進めたい請求書の発行・送付の記事、入金確認・売掛金の消込の記事
4仕訳の案づくり1〜3で集まった書類とデータが、そのまま仕訳の材料になるこの記事の2章の考え方を参考に
5月次決算と経営への報告手前の作業が整うほど締めが早くなり、資料も作りやすくなる月次の経営会議資料の記事

この順番には理由があります。1つは、失敗したときの影響が小さいところから始めるためです。社内向けの作業なら、AIの結果に誤りがあっても社内で直せます。もう1つは、前の段階のデータが次の段階の材料になるためです。経費精算や受け取った請求書がAIで整った形になっていれば、仕訳の案も月次の締めも、そのデータを使って進められます。

会社によって順番を入れ替えてよい場面

  • 毎月の請求書の発行件数が多く、月末の残業の原因がはっきりそこにある場合は、段階3の請求書の発行から始めてもかまいません
  • 入金の名義のゆれや合算入金で消込に毎月何日もかかっている場合は、入金消込を先に選ぶ考え方もあります
  • 経費精算をすでに別の仕組みで回していて困っていない場合は、段階1を飛ばして受け取った請求書から始めます

迷ったときは、「いちばん時間がかかっている作業」と「間違えたときの影響の大きさ」の2つを並べて、時間がかかるのに影響が小さい作業を最初に選んでください。

経理にAIを入れる前に、責任者が決めておくこと

経理のAI導入がうまくいくかどうかは、AIの性能よりも、始める前の準備で決まる部分が大きいです。経理責任者が先に決めておきたいことを、チェックリストにまとめました。

経理にAIを入れる前のチェックリスト

  • 最初に任せる仕事を1つに絞り、今かかっている時間を記録している
  • 請求書・領収書・入金明細などの受け取り口(メールの宛先、フォルダ、紙の置き場所)がそろっている
  • 照合のルール(何が合えば一致とするか)や勘定科目の決まりを、文章で書き出している
  • AIの結果を誰が、いつ、どこまで確かめるかが決まっている
  • 承認と支払いの実行は人が行う、という権限の線引きが決まっている
  • AIが判断できなかったものを回す担当者と、その後の流れが決まっている
  • 取引先の情報や金額を、どのAIサービスに入れてよいかが社内で決まっている
  • 保存のしかたが電子帳簿保存法などの決まりに沿っているかを、顧問税理士と確認している

このうち、特に後回しにされやすいのが「ルールを文章で書き出す」ことです。経理のベテラン担当者の頭の中にある判断のくせ(この取引先は月末締め翌月払い、この費目は会議費で処理、など)は、書き出さないとAIに伝わりません。逆にいえば、AI導入をきっかけにルールを書き出すと、担当者が休んだり辞めたりしても仕事が止まりにくくなるという効果もあります。

ポイント

会計ソフトや販売管理の仕組みをすでにお使いの場合は、それを置き換えるのではなく、その前後の「読む・照らし合わせる・下書きする」作業にAIを足す形にすると、今の業務の流れを大きく変えずに始められます。

AIを入れると、経理担当者と責任者の仕事はどう変わるか

経理にAIを入れても、経理の仕事がなくなるわけではありません。変わるのは、時間の使い方です。導入前と導入後の違いを、担当者と責任者に分けて整理します。

立場導入前導入後
経理担当者書類を1枚ずつ入力し、表と表を見比べる。社員からの同じ質問に何度も答えるAIが印を付けた食い違いや例外だけを確かめる。判断が分かれる質問にだけ答える
経理責任者担当者の入力を見直し、月末・月初の残業を管理する。締めが遅れて報告が後ろにずれる確認の基準と例外の扱いを決める。早く締まった数字をもとに、経営への説明や改善の提案に時間を使う
経営者月次の数字が出るのを待つ早めに出る数字と変化の指摘をもとに、手を打つ時期を早められる

経理責任者の役割は、「自分でも手を動かして作業を回す人」から「AIと担当者が回す仕組みの基準を決め、出てきた数字の意味を経営に伝える人」へと少しずつ移っていきます。月次の締めが早くなれば、経営会議に新しい数字を持っていけるようになり、経理部門が経営の判断を支える場面も増えます。

導入後に気をつけたいこと

  1. 確認を省きすぎない:AIの結果が安定してきても、お金と取引先に関わる部分の確認は残す
  2. 例外を記録してルールを直す:AIが判断できずに人へ回したものを記録し、月に一度ルールに反映する
  3. 制度の変更に合わせて見直す:税制や制度が変わったときは、AIに渡しているルールも合わせて直す
  4. 浮いた時間の使い道を決めておく:締めの早期化、経営への報告、担当者の育成など、何に回すかを先に決めておく

当社のAI社員で経理の仕事を支える場合の進め方

当社が提供する「AI社員」は、お客様の会社の経理の流れに合わせて、読み取り・照合・下書きの仕組みを作り、運用しながら調整していくサービスです。当社自身も、自社の業務にAIを順に取り入れ、削減した時間は月約480時間、浮いた人件費は月約100万円(社員3名分)になっています。

ご相談から稼働までの流れ

  1. ヒアリング:経理の仕事のうち、どこに時間がかかっているか、どんな書類やデータがあるかをうかがう
  2. 最初の1業務を決める:この記事の3章の順番を目安に、件数と影響の大きさから最初の対象を一緒に選ぶ
  3. ルールの書き出しと仕組みづくり:照合のルールや確認の手順を整理し、AIの仕組みを作る。構築期間はジュニア2週間程度・ミドル1か月程度が目安で、最短2週間で稼働できます
  4. 試しながら直す:実際の書類で試し、AIが判断できなかったものをもとにルールを直す
  5. 次の業務に広げる:1つ目で整えたデータと手順を引き継ぎ、次の業務へ広げる

料金は初期費用+月5万円で、初期費用はヒアリング後にお見積もりします。月額には保守・相談・メンテナンスが無制限で含まれ、AIの利用料は実費です。制度の変更に合わせたルールの見直しや、2つ目・3つ目の業務への広げ方のご相談も、同じ窓口でお受けしています。税務上の判断そのものは、引き続き顧問税理士とご相談ください。

「経理のどこからAIに任せればよいかわからない」という段階からでもかまいません。まずは、毎月いちばん時間がかかっている作業を1つ書き出すところから、一緒に整理しましょう。

よくある質問

AIは経理業務のどこに使えますか?

請求書や領収書の読み取り、発注や入金明細との照らし合わせ、仕訳や連絡文の下書き、社内からの問い合わせへの回答などに使えます。承認・支払いの実行・税務の判断は人が行う前提で、作業の部分をAIに任せるのが基本です。

経理にAIを導入するなら、何から始めるのがよいですか?

件数が多く、間違えても社内で気づいて直せる作業から始めるのがおすすめです。社内からの問い合わせ対応や経費精算、取引先から届く請求書の処理から入り、請求書の発行・入金消込、月次決算へと順に広げると失敗しにくくなります。

AIに仕訳や税務の判断を任せても大丈夫ですか?

仕訳は過去の処理に沿った案をAIに作らせ、人が確定する形なら使えます。税務の判断は制度の改正や会社ごとの事情で扱いが変わる場合があるため、AIに任せきりにせず、最新の情報は国税庁などの公式サイトや顧問税理士に確認してください。

経理にAIを入れると、経理担当者の仕事はなくなりますか?

なくなりません。入力や照合の作業が減る一方で、AIが拾った例外の判断、確認の基準づくり、経営への数字の説明といった仕事の比重が大きくなります。

執筆・監修

吉村 聡一郎の写真

株式会社MEDISITE 執行役員/AI事業責任者

吉村 聡一郎

株式会社アシロ(東証グロース市場)で営業統括責任者・新規事業開発責任者を経験。2022年、株式会社MEDISITEの創業メンバーとして参画し、AI事業・営業支援事業を統括。

  • AI導入・AI研修
  • 営業・新規事業

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