AIが止まったとき業務を止めないにはどう備えるか——手作業に戻す手順書・気づく仕組み・復旧後の確認・訓練
結論
AIが止まった日に業務を止めないためには、「AIなしで同じ仕事を回す手順書」「止まったとすぐ気づく仕組み」「復旧した後に抜けや重複を確かめる手順」「年に数回の切り替え訓練」の4つを、導入したときに用意しておくことが最も確実な備えです。AIは外部のサービスや社内のデータとつながって動くため、どれだけ丁寧に作っても止まる日をゼロにはできません。止まらないことより、止まっても困らないことを目標にすると、管理職がやるべきことがはっきりします。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、AIが止まった・使えなくなった当日に業務を止めないための備え(手作業に戻す手順書、気づく仕組み、復旧後の確認、平時の訓練)について解説します。受注書の入力や問い合わせへの返信をAIに任せるようになると、担当者は手作業のやり方を少しずつ忘れていきます。そんなある朝、AIが動いていないと気づいたら、今日の受注は誰がどう入力するのか。お客様への返信はどうするのか。AIを入れた会社の管理職の方から「止まったときのことを考えていなかった」という声を伺うことがあります。この記事では、AIが止まった当日に業務を止めないための備えを、手作業に戻す手順書の作り方、止まったと気づく仕組み、復旧後の確認、平時の訓練の4つに分けて説明します。AIが止まる原因や保守契約の確認点は「AI導入後の保守・メンテナンス」の記事にまとめていますので、ここでは「止まった日の業務をどう回すか」に絞ってお伝えします。
AIは止まる日がある前提で、「止まっても困らない」状態を目標にする
AIの仕組みは、AIそのもの(外部のAIサービス)、読み込むデータ(メール・共有フォルダ・表計算など)、つなぎ役のプログラムなど、いくつもの部品がつながって動いています。どれか1つが動かなくなれば、AIの仕事も止まります。部品の多くは社外のサービスなので、どれだけ丁寧に作っても、止まる日をゼロにすることはできません。
止まり方にはいくつかの種類があり、それぞれ業務への影響が違います。
| 止まり方 | 例 | 業務への影響 |
|---|---|---|
| 完全に止まる | AIサービスの障害、通信の不具合、ログインできない | 気づきやすいが、その間の仕事がすべて人に戻る |
| 一部だけ止まる | 特定の取引先の書類だけ読めない、添付ファイルだけ処理されない | 気づきにくく、処理漏れが後から見つかる |
| 動いているが結果がおかしい | 読み取りの間違いが急に増える、返信の文面が崩れる | いちばん気づきにくく、誤りが外に出るおそれがある |
| 遅くなる | 処理に普段の何倍も時間がかかる | 締め切りのある仕事に間に合わなくなる |
表のとおり、怖いのは「完全に止まる」ことよりも、止まっていることに気づかないまま時間がたつことです。完全に止まれば誰かが気づきますが、一部だけ止まったり、結果がおかしくなったりした場合は、お客様からの連絡で初めて知ることもあります。
ポイント
目標は「AIを絶対に止めないこと」ではなく、「止まってもその日の業務が回り、復旧後に抜けや重複が残らないこと」です。この目標なら、管理職が自分の部署の中で準備できます。
手作業に戻す手順書は、AIを入れる前のやり方を「今の形」で残しておく
AIが止まった日にいちばん困るのは、「AIを入れる前はどうやっていたか」を誰も正確に覚えていないことです。導入から時間がたつほど、担当者の入れ替わりもあり、手作業のやり方は忘れられていきます。そこで、AIを入れるときに、手作業に戻すための手順書を作っておきます。
手順書に書いておくこと
- 対象の業務と、止まったときの優先順位:その日のうちに必ず終える仕事(当日出荷の受注、お客様への初回返信など)と、翌日以降に回してよい仕事を分けておく
- 手作業でのやり方:どの画面を開き、どこから情報を取り、どこに入力するかを、画面の名前やファイルの場所まで具体的に書く
- 担当と応援:誰が手作業を受け持つか、件数が多い日は誰が応援に入るか
- お客様・取引先への伝え方:返信が遅れる場合の連絡の文面、電話での案内のしかた
- 記録のつけ方:手作業で処理した案件を一覧に残す方法(復旧後の確認で使う)
- 連絡先:社内の責任者と、AIの保守を頼んでいる会社の連絡先・連絡方法
大切なのは、AIを入れる前のやり方をそのまま書き残すのではなく、「今の業務の形」に合わせて書くことです。AIを入れた後に、入力先の表や確認の流れが変わっていることが多いためです。たとえば、受注書をAIが読み取って表に入力し、人が確認する流れなら、手順書には「受注書を見ながら同じ表に人が入力する」と、今使っている表を前提に書きます。
「全部を手作業」ではなく、減らして回す方法も書いておく
AIが処理していた件数を、そのまま人が手作業で受け持つのは難しい場合があります。そのときは、今日中に必要なものだけを手作業で処理し、残りは復旧を待つ、と決めておきます。問い合わせの返信なら「まず受け付けた旨だけを返し、詳しい回答は復旧後に送る」のような、短くした対応も手順書に入れておくと、当日の判断に迷いません。
止まったとすぐ気づく仕組みを作り、気づいた後の連絡の流れを決める
止まっている時間が長くなるほど、手作業で取り戻す量が増えます。止まったことに早く気づく仕組みは、手順書と同じくらい大切です。気づき方には、仕組みで気づく方法と、人が気づく方法があり、両方を組み合わせます。
| 気づき方 | 具体例 | 向いている止まり方 |
|---|---|---|
| エラーの通知 | 処理に失敗したら、担当者のチャットやメールに知らせが届く | 完全に止まる、一部だけ止まる |
| 件数の確認 | 毎日決まった時刻に「今日処理した件数」を知らせ、いつもより極端に少なければ気づける | 一部だけ止まる、遅くなる |
| 未処理の確認 | 受け取ったメールや書類のうち、AIがまだ処理していないものの数を見られるようにする | 一部だけ止まる、遅くなる |
| 人の確認での気づき | AIの結果を確認する担当者が、間違いが増えた・様子がおかしいと感じたら報告する | 動いているが結果がおかしい |
特に「件数の確認」は簡単で効果があります。毎日の処理件数が知らせで届くだけで、「今日は10件しか処理されていない。いつもは50件ほどあるのに」と気づけます。エラーの通知は、エラーとして記録されない不具合には反応しないため、件数での確認と組み合わせておくと安心です。
気づいた後の連絡の流れ
- 気づいた人が、決めておいた連絡先(部署の責任者など)に知らせる:迷ったら知らせる、と決めておく
- 責任者が、手作業に切り替えるかどうかを決める:「30分たっても直らなければ切り替える」など、切り替えの目安を手順書に書いておく
- 保守を頼んでいる会社に連絡する:いつから、どの業務で、どんな様子かを伝える
- 関係する部署に知らせる:営業や現場など、AIの結果を使う部署に、遅れや手作業への切り替えを伝える
ポイント
切り替えの判断で迷う時間がいちばんのむだになります。「何分たったら」「どの仕事から」手作業に戻すかを事前に決めておけば、責任者が不在でも現場で動けます。
復旧した後は、抜け・重複・やり直しの3点を確かめてから元に戻す
AIが動き始めたら、すぐに通常どおりに戻したくなります。しかし、止まっていた間の処理を確かめずに戻すと、二重に入力された受注や、誰も返信していない問い合わせが残ることがあります。復旧した後は、次の3点を確かめてから通常の運用に戻します。
- 抜け:止まっていた間に届いたものが、すべて処理されたか:受け取ったメールや書類の一覧と、処理済みの一覧を照らし合わせる
- 重複:手作業で処理したものを、AIがもう一度処理していないか:AIが復旧後に、止まっていた間のものをまとめて処理し直すことがあるため、手作業の記録と見比べる
- やり直し:止まる直前の結果が正しいか:結果がおかしくなってから止まった場合は、おかしくなり始めた時点からの結果を確認し直す
ここで役に立つのが、手順書に書いておいた「手作業で処理した案件の記録」です。手作業の記録があれば、AIの処理済みの一覧と照らし合わせるだけで、抜けと重複を見つけられます。記録がないと、どれを人が処理したのか分からず、確認に何倍もの時間がかかります。
復旧後に通常運用へ戻す前のチェックリスト
- 止まっていた時間帯(いつからいつまで)を記録した
- その間に届いたメール・書類・依頼の件数を確かめた
- 手作業で処理した案件の一覧と、AIの処理済みの一覧を照らし合わせた
- 二重に処理された案件がないか確かめ、あれば取り消した
- 返信や連絡が漏れているお客様・取引先がいないか確かめた
- 止まる直前のAIの結果に誤りがないか、必要な範囲で確認した
- 関係する部署に、通常の運用に戻ったことを伝えた
確認が終わったら、何が起きたか、どれくらい止まったか、どう対応したかを短く記録しておきます。同じ原因で止まったときに、次はもっと早く動けるようになりますし、手順書を直すきっかけにもなります。
平時の訓練は、年に数回「AIを止めた日」を作って手順書どおりに回してみる
手順書は、作っただけでは使えないことがよくあります。書かれている画面がもうなかったり、担当者が異動していたり、手作業だと思った以上に時間がかかったりするためです。そこで、平時に「AIを使わずに回す日」を作って、手順書どおりに業務を回してみる訓練をおすすめします。
訓練の進め方
- 対象の業務と日を決める:繁忙期を避け、件数が少なめの日を選ぶ。最初は半日や1時間など短い時間で行う
- 止まったことに気づく流れから始める:「AIが止まった」という連絡を担当者に入れ、連絡の流れが決めたとおりに動くか確かめる
- 手順書だけを見て手作業で処理する:手順書を作った人ではなく、ふだんその作業をしていない人にも参加してもらう
- 復旧後の確認まで行う:手作業の記録とAIの処理を照らし合わせる流れも試す
- 気づいた点で手順書を直す:分かりにくかった所、足りなかった情報、かかった時間を書き足す
訓練でかかった時間を測っておくと、「AIが1日止まったら、手作業で何人が何時間かかるか」が分かります。この数字があれば、止まった日にどれくらい応援が必要か、どの仕事を翌日に回すかを、その場で判断できるようになります。
訓練で確かめたいこと
- 手順書の画面名・ファイルの場所が今の業務と合っているか
- ふだんその作業をしていない人でも、手順書だけで処理できたか
- 連絡の流れ(誰が誰に知らせるか)が決めたとおりに動いたか
- 手作業で1件あたり何分かかったか
- 手作業の記録が、復旧後の確認に使える形で残ったか
訓練には、AIを任せきりにしないという効果もあります。担当者が手作業のやり方を覚えていれば、AIの結果がおかしいときにも「いつもと違う」と気づきやすくなります。
当社のAI社員では、止まった日の備えを導入時に一緒に作る
当社のAI社員は、AIの仕組みを作るときに、止まった日の備えも一緒に用意することを大切にしています。具体的には、次のような準備を導入の段階でご相談しながら進めます。
- 手作業に戻す手順の整理:AIに任せる業務の、今の流れと手作業でのやり方を一緒に書き出す
- 気づく仕組みの設定:処理に失敗したときの通知や、毎日の処理件数の知らせなど、業務に合った気づき方を組み込む
- 処理の記録:AIが何をいつ処理したかを残し、復旧後の照らし合わせに使えるようにする
- 止まったときの連絡先:月5万円の中で保守・相談・メンテナンスを回数の制限なくお受けしているため、止まったときもいつもの窓口にご連絡いただけます
当社の導入事例では、製造業(従業員30名規模)の事務担当の方の受注書入力が1日2時間から15分になりました。こうした効果が大きい業務ほど、AIが止まった日の影響も大きくなります。だからこそ、効果を出すことと、止まった日に困らないことを、同じ導入の中で考えることが大切です。
| 備え | いつ用意するか | 主に誰が持つか |
|---|---|---|
| 手作業に戻す手順書 | 導入時(業務の流れを整理するとき) | 対象業務の部署の管理職 |
| 止まったと気づく仕組み | 導入時(AIの仕組みを作るとき) | AIを作る側と部署の担当者 |
| 復旧後の確認手順 | 導入時に作り、止まるたびに見直す | 部署の管理職 |
| 切り替えの訓練 | 稼働後、年に数回 | 部署の管理職 |
料金は初期費用+月5万円(契約12か月、税別、AI利用料は実費)で、初期費用はヒアリング後にお見積もりします。すでにAIを使っていて「止まったときの備えができていない」という段階のご相談もお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
AIが止まったら業務はどうすればいいですか?
あらかじめ用意した手順書にそって、今日中に必要な仕事から手作業に切り替えます。手作業で処理した案件は一覧に記録し、復旧後にAIの処理と照らし合わせて抜けや重複を確かめます。
AIの障害に備えるBCP(事業継続計画)には何を書けばいいですか?
AIに任せている業務ごとに、止まったときの優先順位、手作業でのやり方、担当と応援、お客様への伝え方、手作業の記録のつけ方、連絡先を書いておきます。会社全体のBCPに、AIを使う業務の項目として加える形でもかまいません。
AIが止まったことに気づくにはどうすればいいですか?
処理に失敗したときの通知に加えて、毎日の処理件数を担当者に知らせる仕組みを入れると、一部だけ止まっている場合にも気づけます。結果がおかしいといった変化は、AIの結果を確認する担当者が気づいたらすぐ報告する流れにしておきます。
AIに任せると手作業のやり方を忘れてしまいませんか?
忘れてしまうことは実際にあるため、手作業に戻す手順書を今の業務の形で残し、年に数回は手順書どおりに業務を回す訓練をしておくのがおすすめです。訓練で手作業にかかる時間を測っておくと、止まった日の応援の人数も決めやすくなります。