AI導入のキックオフ会議で決めること——90分の議題テンプレートと準備・議事メモのチェックリスト
結論
AI導入のキックオフ会議では、目的とゴール・対象業務の範囲・社内の担当者と決裁者・AIの結果を確認する人・扱うデータと権限・連絡の方法と頻度・試運転の期間と判断基準・スケジュールの8つを決めます。会議は60〜90分で足り、業務の見本書類・件数と時間の記録・依頼書の3つを事前に用意しておけば、その場で決めきれます。終わったら当日中に、決まったことと宿題を議事メモにして全員に配ります。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、AI導入のキックオフ会議で決めることと、議題テンプレート・準備物・議事メモのチェックリストについて解説します。外部の会社にAIの導入を頼むと決めたあと、最初に開くのがキックオフ会議(関係者が集まって進め方を決める最初の打ち合わせ)です。ところが「何を話せばいいのか分からないまま、相手の説明を聞いて終わった」「社内の誰が担当なのか決まらず、翌週から連絡が止まった」という声をよく伺います。最初の会議で決めるべきことが決まっていないと、そのあいまいさは試運転の終わりまで尾を引きます。この記事では、AIの仕組みを作って納める側である当社の立場から、そのまま使える議題テンプレート(時間配分つき)、会議で決める8項目、事前に用意するもの、会議後に配る議事メモの項目、よくある失敗をまとめます。
キックオフ会議のゴールは「誰が・何を・いつまでに」を決めて帰ること
AI導入のキックオフ会議とは、AIを作る側(外部の会社)と使う側(自社)が初めてそろい、目的・範囲・役割・日程を決める会議です。契約の前に開く場合も、契約の直後に開く場合もありますが、どちらでもやることは同じです。
この会議のゴールは、説明を聞くことではありません。会議が終わったときに、「誰が・何を・いつまでにやるか」が全員の手元に残っている状態をつくることです。そのために、話し合う議題と決める項目を、あらかじめ決めておきます。
キックオフ会議には、外部の会社と開くものと、社内だけで開くものがあります。中小企業では、外部との会議の前に社内で30分ほど顔合わせをしておくと、当日の話がぶれません。
| 社内の顔合わせ | 外部の会社とのキックオフ会議 | |
|---|---|---|
| 時期 | 外部との会議の1週間ほど前 | 依頼先が決まった直後 |
| 時間 | 30分程度 | 60〜90分 |
| 出る人 | 経営者、対象業務の責任者、ふだんの担当者 | 社内の顔合わせの出席者+依頼先の担当者 |
| 決めること | 社内の担当者、言ってよい情報、当日の質問 | この記事の3章で紹介する8項目 |
| 主な準備 | 依頼書の下書き、業務の見本書類 | 社内の顔合わせで決めたことのメモ |
社内の顔合わせでは、現場の担当者に「なぜこの業務からAIを入れるのか」を経営者から直接伝えることも大切です。理由が分かっていると、担当者は当日、自分の業務の事情を進んで話してくれます。
そのまま使える議題テンプレート(90分の時間配分つき)
外部の会社とのキックオフ会議は、次の順番で進めると、決めるべきことを漏らさずに終えられます。時間は90分の場合の目安です。
| 順番 | 議題 | 時間 | 主に話す人 | この議題で決めること |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 出席者の紹介と役割の確認 | 5分 | 双方 | 誰が担当で、誰が決める人か |
| 2 | 導入の目的とゴールの確認 | 10分 | 自社の経営者 | 何のために入れ、何がどうなれば成功か |
| 3 | 対象業務の説明(見本書類を見ながら) | 20分 | 自社の担当者 | AIに任せる範囲と、任せない範囲 |
| 4 | 人が確認するところ・例外の扱い | 10分 | 双方 | 誰が、どの時点で、何を確認するか |
| 5 | 扱うデータと権限 | 10分 | 双方 | 渡すデータ、保存場所、見られる人 |
| 6 | スケジュールと試運転の判断基準 | 15分 | 依頼先 | 日程、試運転の期間、判断の日と基準 |
| 7 | 連絡の方法と頻度 | 5分 | 双方 | 連絡の手段、定例の曜日、返事の目安 |
| 8 | 決まったことと宿題の読み上げ | 15分 | 依頼先または自社の進行役 | 宿題の担当と期限、次回の日時 |
60分で行う場合は、3の業務説明を事前に資料で送っておき、当日は質問だけにします。これで15分ほど短くなります。ほかの議題も少しずつ縮めますが、最後の「読み上げ」だけは削らないでください。会議の中で決まったつもりのことが、読み上げてみると人によって違っていた、ということはよく起きます。
ポイント
議題表は、会議の3日前までに出席者全員に送っておきます。各議題の「決めること」の欄まで共有しておくと、当日は「決めるために話す」場になり、雑談や説明だけで時間が過ぎるのを防げます。
社内の顔合わせ(30分)の議題
外部との会議の前に開く社内の顔合わせは、次の4つの議題で足ります。
- なぜこの業務からAIを入れるのか(5分):経営者から目的を伝える
- 社内の役割(5分):窓口の担当者、決裁者、AIの結果を確認する人を仮に決める
- 依頼先に渡してよい情報(10分):見本書類や業務データのうち、渡せるもの・塗りつぶすもの・渡さないものを分ける
- 当日に聞きたいこと(10分):現場の不安や疑問を出し合い、質問のメモにまとめる
ここで決めたことは、当日の議題1・4・5の答えの下書きになります。社内で答えがそろった状態で外部との会議に臨めるため、当日の持ち帰りが大きく減ります。
会議で決める8項目と、決まっていないと起きること
キックオフ会議で決める項目は、次の8つです。すべてをその場で細かく決めきる必要はありませんが、少なくとも「誰が・いつまでに決めるか」は決めて帰ります。
| 決めること | 決め方の例 | 決まっていないと起きること |
|---|---|---|
| 1. 目的とゴール | 「受注入力の時間を半分以下にして、月末の残業をなくす」のように、測れる形で1〜2文にする | 試運転の終わりに、成功か失敗か判断できない |
| 2. 対象業務の範囲 | 「読み取りと下書きまでAI、登録と送信は人」のように、境目をはっきりさせる | 作っている途中で「これもお願い」が増え、日程が延びる |
| 3. 社内の担当者と決裁者 | 窓口になる担当者1名と、費用や方針を決める人1名を決める | 質問の返事が遅れ、誰に聞けばいいか分からなくなる |
| 4. 確認する人 | AIの結果を見る人と、見るタイミング(取り込む前・送る前など)を決める | 確認が抜けて間違いが外に出る、または全員が見て手間が減らない |
| 5. 扱うデータと権限 | 渡すデータの種類、個人情報を含むか、保存場所、見られる人を決める | あとから「その情報は渡せない」となり、作り直しになる |
| 6. 連絡の方法と頻度 | チャットかメールか、定例は週1回何曜日か、返事は何日以内か | 連絡が個人宛てに散らばり、決まったことが追えなくなる |
| 7. 試運転の期間と判断基準 | 期間、対象の人数、判断の日、合格の基準を決める | 試運転が「様子見」のまま終わらない |
| 8. スケジュール | 見本の受け渡し、最初の試作、試運転の開始、判断の日を日付で決める | 節目がなく、気づいたときには予定より大幅に遅れている |
1の目的とゴールの立て方はAI導入の目的とゴールの決め方、7の試運転の終わりに何を基準に判断するかはパイロット(試運転)の終わりに決めることで詳しく解説しています。キックオフ会議では、これらの記事で決めた内容を依頼先と共有し、合意する場だと考えてください。
担当者と決裁者は、別の人でもよいが必ず名前で決める
8項目の中で、中小企業でいちばん決まらないまま進みやすいのが3の担当者と決裁者です。「総務のみんなで」「何かあれば私に」では、依頼先は誰に質問すればいいか迷います。窓口の担当者を1名、費用や範囲の変更を決める人を1名、名前で決めます。2人が同じ人でもかまいません。担当者が忙しくて返事が遅れそうな場合は、代わりの人も決めておきます。
データと権限は「渡すもの」より先に「渡さないもの」を決める
5のデータと権限は、専門的に見えて後回しにされがちですが、あとから変えると作り直しが大きくなる項目です。決めるときは、まず「依頼先に渡さないデータ」「AIに読ませないデータ」をはっきりさせると話が早く進みます。そのうえで、次の点を確かめます。
- 見本や試運転で使うデータに、お客様や社員の個人情報が含まれるか
- データを置く場所(自社のクラウド、依頼先の環境など)と、置いておく期間
- 依頼先の誰がデータを見られるか、試運転が終わったらデータをどうするか
- AIが使うソフトやサービスのアカウントを、自社と依頼先のどちらの名義で持つか
個人情報の扱いについては、業種や取引先との契約によって守るべき決まりが違う場合があります。判断に迷うときは、最新の情報を公的機関の公式サイトで確認したうえで決めてください。
事前に用意するもののチェックリスト
キックオフ会議で8項目を決めきれるかどうかは、事前の準備でほぼ決まります。特に次の3つがそろっていると、依頼先はその場で「どこが難しいか」「どれくらいかかるか」を具体的に答えられます。
- 業務の見本書類:AIに読ませたい書類やメールの実物を2〜3件。個人情報は塗りつぶしてかまいません
- 件数と時間の記録:1日・1か月に何件あり、1件に何分かかっているか。1〜2週間分のおおよその記録で十分です
- 依頼書:対象業務・いまの手順・例外・人が確認するところなどをA4で1〜2枚にまとめたもの
依頼書の項目と書き方はAI導入の依頼書(要件メモ)の書き方にテンプレートと記入例があります。依頼書がまだ半分しか埋まっていなくても、会議の場で一緒に埋めれば問題ありません。
キックオフ会議の前に用意するもの
- 業務の見本書類(2〜3件、個人情報は塗りつぶし)
- 件数と1件あたりの時間の記録(繁忙期があればその件数も)
- 依頼書(下書きでよい)
- いまの手順のメモ(番号つきで5〜10段階)
- 使っているソフトやサービスの名前と、データを出し入れする方法
- 社内のAI利用ルールや情報の取り扱いルール(あれば)
- 出席者の名前と役割の一覧
- 決裁者の予定(試運転の判断の日を、その場で押さえられるように)
- 依頼先に聞きたいことのメモ(社内の顔合わせで集めたもの)
最後の「聞きたいこと」は、現場の担当者から集めておくのがおすすめです。「AIが間違えたら誰の責任か」「いまのやり方と並行してやる期間はあるか」といった、現場ならではの不安が出てきます。会議の場で依頼先に答えてもらうと、担当者の安心につながります。
準備物は、会議の3日前までに議題表と一緒に依頼先へ送っておくのが理想です。依頼先が事前に見本書類へ目を通せるので、当日は「この手書きの欄は読めそうか」「この例外は人に回すか」といった具体的な話から始められます。送る前に、個人情報の塗りつぶし漏れがないかを担当者以外の人がもう一度確かめておくと安心です。
会議後に配る議事メモの項目と、配るタイミング
キックオフ会議は、議事メモ(話し合いの記録)を配るまでが1つの仕事です。会議の当日中、遅くとも翌営業日までに、出席者全員と、出席できなかった関係者に配ります。時間がたつほど、決まったことの記憶が人によってずれていきます。
議事メモは長い文章にする必要はありません。次の項目を箇条書きで埋めれば十分です。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 会議の情報 | 日時、出席者、欠席者 |
| 目的とゴール | 合意した目的とゴールを1〜2文で |
| 対象業務の範囲 | AIに任せる範囲と、任せない範囲 |
| 役割 | 社内の担当者と決裁者、確認する人、依頼先の担当者 |
| データと権限 | 渡すデータ、保存場所、見られる人、渡さないと決めたデータ |
| 連絡の決まりごと | 連絡の手段、定例の曜日と時間、返事の目安 |
| 日程 | 見本の受け渡し、試作、試運転の開始、判断の日 |
| 宿題 | 「誰が・何を・いつまでに」を1行ずつ |
| 決まらなかったこと | 保留にした項目と、いつ・誰が決めるか |
| 次回 | 次の打ち合わせの日時と議題 |
ポイント
議事メモでいちばん大切なのは「宿題」と「決まらなかったこと」の2つです。決まったことだけを書くと、保留にした項目がそのまま忘れられます。保留の項目にも、決める人と期限を必ず書き添えてください。
議事メモは、依頼先と自社のどちらが書くかもキックオフ会議で決めておきます。依頼先が書く場合も、自社の担当者が読んで「自分たちの理解と合っているか」を確かめ、違う点があればすぐに返します。小さな食い違いも、この段階で直しておけば手間はかかりません。
キックオフ会議でよくある失敗と、その防ぎ方
キックオフ会議がうまくいかない会社には、いくつかの共通点があります。事前に知っておけば、多くは防げます。
| よくある失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 依頼先の説明を聞くだけで終わる | 決まったことが何もなく、次に何をすればいいか分からない | 議題表に「決めること」を書いて事前に送る |
| 現場の担当者が出ていない | 業務の細かい事情が伝わらず、作ったあとに例外が見つかる | ふだん業務をしている人を必ず呼ぶ |
| 決裁者が途中で抜ける | 日程や範囲を決められず、持ち帰りが増える | 決める議題を前半にまとめるか、決裁者の予定に合わせる |
| 見本書類を持ってこない | 話が抽象的になり、難しさや手間を見積もれない | 会議の前に見本を送っておく |
| 最初から範囲を広げすぎる | 例外が増え、作るのに時間がかかる | まずは件数が多く判断が少ない作業に絞る |
| 議事メモを配らない | 人によって決まったことの理解が違い、あとで食い違う | 当日中に宿題と保留を含めて配る |
中でも見落とされがちなのが、現場の担当者の参加です。経営者と依頼先だけで話を進めると、「月末だけ書式が変わる」「この取引先だけは電話で確認している」といった、担当者しか知らない事情が抜け落ちます。こうした事情は、あとから見つかるほど直す手間が大きくなります。キックオフ会議の時間の一部だけでも、担当者に出てもらうことをおすすめします。
当社のキックオフ会議の進め方
当社では、ヒアリングの段階で依頼書の項目を一緒に埋め、キックオフ会議ではこの記事で紹介した8項目を1回で決めきることを目指しています。構築期間はジュニアで2週間程度、ミドルで1か月程度で、最短2週間で稼働できるため、キックオフ会議の場で試運転の開始日と判断の日まで決めてしまうことが多いです。動かし始めたあとは、月5万円の中で保守・相談・メンテナンスを回数の制限なくお受けしており、キックオフ会議で決めた範囲や確認の手順も、試運転の結果を見ながら一緒に見直せます。初期費用はヒアリング後にお見積もりします。「何を準備すればいいか分からない」という段階でもかまいませんので、AI社員の詳細とご相談はこちらからお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
AI導入のキックオフ会議には誰が出るべきですか?
経営者などの決裁者、対象業務の責任者、ふだんその業務をしている担当者の3者が出るのが理想です。依頼先からは、実際に作る担当者にも出てもらうと、業務の事情がそのまま伝わります。
キックオフ会議はどのくらいの時間が必要ですか?
60〜90分が目安です。業務の説明を資料で事前に送っておけば60分でも足りますが、最後に決まったことと宿題を読み上げる時間は必ず残してください。
キックオフ会議の前に何を用意すればよいですか?
業務の見本書類を2〜3件、件数と1件あたりの時間の記録、依頼書の下書きの3つです。依頼書は半分しか埋まっていなくても、会議の場で一緒に埋めれば問題ありません。
キックオフ会議で決めきれなかったことはどうすればよいですか?
議事メモの「決まらなかったこと」の欄に書き、いつまでに誰が決めるかを添えて配ります。保留にした項目は、次の定例の議題の最初に入れておくと忘れられません。