はじめてのAI導入公開日

AI導入の目的とゴールはどう決めればよいか——「何をもって成功とするか」を導入前に決める方法と、悪い目標・よい目標の比較

結論

AI導入の目的とゴールは、導入前に経営者が「どの業務の、どんな困りごとを解決し、浮いた力を何に使うか」という目的を1文で書き、それを「時間・件数・返信までの時間・ミス」のうち1〜2つの数字と期限に置きかえて決めます。今の数字を測ってから目標値を置き、見直す時期まで先に決めておくことで、「入れてみたが成功したのかわからない」という状態を防げます。

株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、AI導入の目的とゴール(成功の基準)の決め方について解説します。「AIを入れたほうがいいとは思うが、何を目指せばよいのかはっきりしない」。当社がこれまで伺ってきた約90社のご相談でも、導入の目的やゴールがあいまいなまま話が進みかけるケースは少なくありません。目的があいまいだと、どの業務に入れるかも決まらず、導入したあとに成功したのかどうかも判断できません。この記事では、経営者が導入前に決めておきたい「何をもって成功とするか」について、目的の言葉にし方、測る指標の選び方、今の数字の測り方、期限と見直しのタイミングを、悪い目標とよい目標の比較も交えて説明します。

目的とゴールを決めずにAIを入れると、成功したかどうかを誰も判断できない

AI導入の目的とゴールを決めずに始めた会社では、次のようなことが起きやすくなります。

  • 入れる業務が決まらない:「何でもできそう」に見えるため、あれもこれもと対象が広がり、どれも中途半端になる
  • 社内の受け止め方がばらばらになる:経営者は人手不足の解消を期待し、現場は作業が楽になることを期待し、話がかみ合わない
  • 効果があったのかわからない:「便利になった気がする」という感想だけが残り、続けるかやめるかを決められない
  • 費用の判断ができない:何がどれだけよくなったかが数字でわからないため、払っている費用に見合っているかを説明できない

AIは、それ自体を入れることが目的になりやすい道具です。しかし本来、AIは会社の困りごとを解決するための手段の一つにすぎません。「AIを入れること」ではなく「AIで何を変えるか」をゴールにすることが、導入を成功させるための出発点です。

そして、その目的とゴールを決めるのは、現場の担当者ではなく経営者の役割です。どの困りごとを優先して解決するか、浮いた時間や人手を何に振り向けるかは、会社の方針そのものだからです。

目的は「どの業務の、どんな困りごとを、何のために変えるか」を1文で書く

目的を決めるときは、次の型に当てはめて1文で書いてみるのがおすすめです。

目的を1文にする型

「(業務の名前)で、(今の困りごと)が起きているので、(どう変えたいか)にして、浮いた時間を(何に使うか)に回す」

たとえば、次のように書きます。

  • 「受注書の入力で、事務担当が毎日長い時間を取られているので、入力を確認するだけの作業にして、浮いた時間を納期の調整やお客様対応に回す」
  • 「問い合わせへの返信で、担当が外出していると返事が翌日になることがあるので、すぐに一次返信できるようにして、取りこぼしていた商談を拾う」
  • 「毎月のシフト作成で、管理者が何日も机に向かっているので、下書きをAIに任せて、管理者が現場の職員と話す時間を増やす」

この型で大切なのは、最後の「浮いた時間を何に使うか」まで書くことです。ここが抜けていると、作業時間が減っても、会社として何がよくなったのかが見えません。反対にここまで書いておけば、AI導入の目的が「人手不足を補う」「売上につながる仕事を増やす」「残業を減らす」といった経営の課題と結びつきます。

目的を書くときの注意点

  • 業務は1つに絞る:最初から複数の業務を1文に入れると、何を測ればよいかがぼやける
  • 「効率化」「DX」など広い言葉だけで終わらせない:何がどう変わるのかが具体的にわかる言葉にする
  • 現場の担当者に読んでもらう:経営者の思い込みで書いた困りごとが、現場の実感と合っているかを確かめる

目的が決まらないときの考え方

「困りごとはたくさんあるが、どれを目的にすればよいか決められない」という場合は、次の3つの問いを順番に考えてみてください。

  1. 今いちばん困っているのは、人が足りないことか、時間が足りないことか、質がそろわないことか:人手不足なら件数、残業なら時間、お客様の不満なら返信までの時間、手戻りならミスが、のちに測る指標の候補になる
  2. その困りごとが続くと、半年後・1年後に何が起きるか:取引先を失う、社員が辞める、売上の機会を逃すなど、経営への影響が大きいものを優先する
  3. その業務は手順がある程度決まっていて、結果を人が確かめられるか:判断が難しい仕事より、下書きや入力のように確かめやすい仕事のほうが、最初の目的として効果を確かめやすい

この3つの問いに答えていくと、目的の1文に入れるべき業務と困りごとが自然と絞られていきます。

測る指標は「時間・件数・返信までの時間・ミス」から1〜2つ選ぶ

目的を1文で書けたら、次はそれを数字に置きかえます。AI導入の効果を測る指標は、中小企業の業務であれば、多くの場合次の4つのどれかで表せます。

指標向いている目的測り方の例注意すること
時間担当者の作業を減らしたい、残業を減らしたい1件あたり、または1日あたりの作業時間AIの結果を確認する時間も含めて測る
件数同じ人数でより多く処理したい、取りこぼしを減らしたい1日・1か月あたりに処理した件数繁忙期と閑散期で件数が変わるため、同じ時期どうしで比べる
返信までの時間お客様や取引先への対応を速くしたい問い合わせが届いてから最初に返信するまでの時間夜間や休日の扱いを先に決めておく
ミス入力間違いや確認漏れを減らしたいやり直しや訂正が発生した件数ミスの数え方(どこからをミスとするか)を先にそろえる

指標は、中心にする指標を1つ、補う指標を1つの合計1〜2つに絞るのがおすすめです。たくさん並べると、測る手間が増えて続かず、どれがよくなったのかも判断しにくくなります。

補う指標には、中心の指標と逆に動きやすいものを選ぶと安心です。たとえば作業時間を中心にした場合、速くなった代わりにミスが増えていないかを見るために、ミスの件数を補う指標にします。速さだけを追って質が落ちていた、という事態を防げます。

ポイント

「社員の満足度」「業務が楽になったか」といった感想も大切ですが、それだけをゴールにすると判断がぶれます。感想は数字の指標と組み合わせて、補足として聞くのがよい使い方です。

今の数字を測ってから、目標値と期限を決める

指標を選んだら、AIを入れる前の今の数字を測ります。今の数字がわからないまま「半分にする」と決めても、何の半分なのかがわからず、導入後に比べることができません。目標値と期限は、次の順番で決めていきます。

  1. 今の数字を2週間ほど記録する:担当者に、作業の開始と終了の時刻、その日の件数、やり直しの有無を1行ずつ書いてもらう。細かく測りすぎると続かないため、この程度で十分
  2. 記録から「ふだんの数字」を出す:たまたま多かった日や少なかった日に引きずられないよう、平均やよくある値を見る
  3. 目標値を置く:今の数字をもとに「どこまで変われば、目的の1文が実現したと言えるか」を決める。外部の依頼先に、同じような業務での変わり方を聞いて参考にする
  4. 期限を決める:「いつまでに、その数字になっているか」を日付で決める。仕組みづくりの期間と、使い慣れるまでの期間を見込んでおく
  5. 目的・指標・目標値・期限を1枚にまとめて共有する:経営者、担当者、外部の依頼先が同じ紙を見て話せるようにする

目標値の参考として、当社の導入事例では、製造業(従業員30名規模)の事務担当の受注書入力が1日2時間から15分に、不動産(従業員15名規模)の問い合わせ担当の初回返信が半日から10分に、介護(職員50名規模)の事務担当の毎月のシフト作成が2日から半日になりました。ただし、どこまで変わるかは業務の中身や今のやり方によって違います。他社の数字をそのまま目標にするのではなく、自社の今の数字から決めることが大切です。

期限の考え方

当社のAI社員の場合、構築期間はジュニアで2週間程度、ミドルで1か月程度が目安で、最短2週間で稼働します。そこから担当者が使い慣れて数字が安定するまでには、さらに時間がかかるのがふつうです。期限は「稼働した日」ではなく、「稼働してから使い慣れたあと」に置くと、無理のない目標になります。

悪い目標とよい目標の違いは「業務・数字・期限」が入っているか

ここまでの考え方をもとに、よくある悪い目標と、それを直したよい目標を比べてみます。

悪い目標何が足りないかよい目標
AIで業務を効率化する業務も数字も期限もない受注書の入力時間を、今の1日あたりの時間から4分の1以下にする。稼働から3か月後までに達成する
問い合わせ対応を速くするどこからどこまでの時間を測るかがない問い合わせが届いてから最初の返信までの時間を、今のふだんの時間から1時間以内にする。夜間・休日も含めて測る
AIを全社員が使えるようにする使うこと自体が目的になっている請求書の発行作業で、月末の残業時間を今の半分にする。浮いた時間は入金の確認に回す
ミスをゼロにする今の数字がなく、達成が現実的でない受注入力の訂正件数を、今の月あたりの件数から半分以下にする。速さが落ちていないかも合わせて見る
人を1人減らす浮いた力の使い道がなく、現場の不安を招くシフト作成にかかる管理者の時間を減らし、その分を職員との面談にあてる。面談の回数も記録する

よい目標にはどれも、対象の業務、今の数字と比べた目標値、期限、そして浮いた時間の使い道が入っています。この形になっていれば、導入後に「達成できたか、できなかったか」をはっきり判断できます。

なお、「人を減らす」ことを目標の前面に出すと、現場が「自分の仕事がなくなる」と受け止め、協力を得にくくなることがあります。経営として人件費を見直す必要がある場合でも、社員に伝える目標は「作業を減らし、その時間を何に使うか」の形にするほうが、導入はうまく進みやすくなります。

見直しのタイミングは「1か月・3か月・契約の更新前」の3回を先に決める

目標は一度決めたら終わりではありません。実際に使い始めると、想定していなかった例外が出てきたり、思った以上に効果が出たりします。そこで、導入前の段階で見直しの時期も決めておきます。

見直しのタイミングと確かめること

  • 稼働から1か月後:数字が記録できているか。使われていない、手作業に戻っているといった問題が起きていないか
  • 稼働から3か月後:目標値に近づいているか。届いていなければ、仕組みの直し方か、目標値の置き方のどちらに原因があるか
  • 契約の更新や次の業務に広げる前:目的の1文が実現したか。続ける・直して続ける・やめるのどれにするか、次にどの業務に広げるか

見直しの場では、数字が目標に届いていないことを責めるのではなく、「なぜ届かないのか」を担当者と外部の依頼先と一緒に確かめることが大切です。指示の出し方や確認の手順を直すだけで数字が変わることも多く、すぐにやめる判断をするのはもったいない場合があります。反対に、目標を達成できた業務は、その進め方を次の業務の目標づくりにも使えます。

当社自身も、社内の業務にAIを使いながら対象を少しずつ広げ、月 約480時間の作業時間の削減につなげてきました。業務ごとに目的と数字を決めて確かめてきたからこそ、どこに効果があったのかを説明できる形になっています。

当社のAI社員は、初期費用+月5万円で、月額に保守・相談・メンテナンスが無制限で含まれており、導入後の見直しの場にも一緒に加わります(初期費用はヒアリング後にお見積もり)。「AIで何を目指せばよいのかを整理したい」という段階からでも、目的の1文づくりや今の数字の測り方を含めて、お気軽に当社へご相談ください。

よくある質問

AI導入の目的は誰が決めるべきですか?

経営者が決めるのが基本です。どの困りごとを優先して解決し、浮いた時間を何に使うかは会社の方針そのものだからです。ただし、困りごとが現場の実感と合っているかは担当者に確かめましょう。

AI導入の効果は何で測ればよいですか?

中小企業の業務であれば、多くは「作業時間」「処理件数」「返信までの時間」「ミスの件数」のどれかで測れます。中心の指標を1つ、補う指標を1つの計1〜2つに絞ると続けやすくなります。

今の作業時間を測っていないのですが、どうすればよいですか?

導入前に2週間ほど、作業の開始と終了の時刻、件数、やり直しの有無を1行ずつ記録すれば十分です。導入後も同じ項目・同じやり方で記録すると、正しく比べられます。

目標に届かなかった場合は、AIをやめるべきですか?

すぐにやめる必要はありません。まず指示の出し方や確認の手順など仕組みの直し方に原因があるのか、目標値の置き方に無理があったのかを確かめ、直して続けるかどうかを判断します。

執筆・監修

吉村 聡一郎の写真

株式会社MEDISITE 執行役員/AI事業責任者

吉村 聡一郎

株式会社アシロ(東証グロース市場)で営業統括責任者・新規事業開発責任者を経験。2022年、株式会社MEDISITEの創業メンバーとして参画し、AI事業・営業支援事業を統括。

  • AI導入・AI研修
  • 営業・新規事業

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