はじめてのAI導入公開日

AI導入の試運転(パイロット)はどう進めるか——期間・範囲の決め方と効果の測り方

結論

AI導入の試運転は、「1つの業務・少人数・期間を区切る」の3点で範囲を絞り、導入前に今の作業時間やミスの件数を測っておき、同じ物差しで導入後と比べる形で進めます。比べる数字と、続ける・見直す・やめるの判断基準を先に決めておくことで、「なんとなく便利」で終わらず、次に広げるかどうかを判断できます。

株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、AI導入の試運転(パイロット)の進め方と効果の測り方について解説します。AIを入れてみたいものの、「いきなり全社に入れて失敗したらどうするか」「入れたあと本当に効果があったのかをどう判断するか」と迷う経営者の方は少なくありません。この記事では、AI導入を小さく始めるための試運転(パイロット:本格導入の前に、範囲を限って試しに運用すること)の進め方と、効果の測り方を説明します。

AI導入は試運転から始めるべき理由

AIは、実際の業務で使ってみるまでわからないことが多い道具です。資料やデモでは便利に見えても、自社の書類の形式、社内の言葉づかい、例外的なケースの多さなどによって、使い勝手は大きく変わります。

試運転から始めると、次のような利点があります。

  • 失敗しても影響が小さい:対象を1つの業務・少人数に絞るため、うまくいかなくても業務全体が止まらない
  • 現場の声を早く集められる:実際に使う人の意見をもとに、本格導入の前に直せる
  • 効果を数字で示せる:導入前後を比べた結果があると、社内で広げるときの説明がしやすくなる
  • やめる判断もしやすい:期間と基準を決めておけば、効果がない場合に早めに見直せる

反対に、範囲を決めずに「とりあえず全員で使ってみる」と、誰がどの業務で使ったのかがわからず、効果があったのかどうかも判断できなくなります。

試運転の範囲は「1業務・少人数・期間を区切る」で決める

試運転の計画では、次の3つを決めます。

決めること目安理由
対象の業務1つ。毎日・毎週くり返していて、手順がある程度決まっている作業効果が数字に表れやすく、うまくいかない原因も見つけやすい
使う人その業務を担当している1〜数名意見を集めやすく、使い方の説明も行き届く
期間1〜3か月程度。月1回の業務なら少なくとも2〜3回分慣れるまでの期間を除いても、比べられるだけの回数を確保できる

対象の業務は、受注書の入力、問い合わせへの初回返信、日報の集計、シフト作成など、「いつ・誰が・どのくらいの時間をかけているか」がはっきりしているものが向いています。逆に、担当者によってやり方がばらばらな業務や、年に数回しか発生しない業務は、試運転で効果を測りにくいため、最初の対象には向きません。

ポイント

使う人には、業務に詳しく、改善に前向きな担当者を選ぶと進めやすくなります。その人が試運転のあとに社内への説明役になってくれると、本格導入もスムーズです。

効果を測るために導入前に記録しておく数字

試運転で最も多い失敗は、導入前の数字を測っていないことです。導入後に「速くなった気がする」と感じても、比べる元がなければ効果を示せません。試運転を始める前に、少なくとも1〜2週間は今のやり方での数字を記録しておきます。

導入前に記録しておきたい数字

  • 1件あたり、または1日・1回あたりの作業時間
  • 処理している件数(1日あたり、1か月あたりなど)
  • 入力ミスや確認漏れなど、やり直しが発生した件数
  • お客様への返信や処理が完了するまでの時間
  • 担当者が残業している時間や、ほかの業務を後回しにしている時間

記録は細かすぎると続かないため、「作業の開始と終了の時刻」「その日の件数」「やり直しの有無」くらいに絞り、表計算ソフトに1行ずつ書く程度で十分です。導入後も同じ項目・同じやり方で記録することで、正しく比べられます。

導入前後の比較の例

当社が支援した製造業(従業員30名規模)の事務担当の例では、受注書の入力に1日2時間かかっていた作業が、AI社員の導入後は15分になりました。このように「同じ業務の、同じ単位の時間」で比べると、効果がひと目でわかります。時間だけでなく、ミスの件数やお客様への返信の速さなど、その業務で大切な物差しを選ぶことが大切です。

試運転の進め方:5つのステップ

試運転は、次の流れで進めます。

  1. 目的と判断基準を決める:「受注書の入力時間を半分にする」「問い合わせの初回返信を当日中にする」のように、何がどうなれば成功かを決め、続ける・見直す・やめるの基準も先に決めておく
  2. 導入前の数字を測る:前の章の項目を、1〜2週間ほど今のやり方で記録する
  3. AIの仕組みを準備する:業務の手順やルールを書き出し、AIに任せる範囲と人が確認する範囲を決めて、仕組みを用意する
  4. 試運転と記録:決めた期間、担当者に使ってもらい、導入前と同じ項目を記録する。うまくいかなかった点や、手で直した点もメモしておく
  5. 振り返りと判断:期間の終わりに数字と現場の意見を見比べ、最初に決めた基準に沿って、続けるか、直してもう一度試すか、やめるかを判断する

試運転の途中で問題が見つかった場合は、期間の終わりを待たずに調整します。AIへの指示やルールを少し変えるだけで改善することも多いため、担当者が気づいたことをすぐに伝えられる窓口を決めておくと進めやすくなります。

試運転でよくある失敗と防ぎ方

試運転がうまくいかないときには、いくつか決まったパターンがあります。始める前に知っておくと、多くは防げます。

よくある失敗起きること防ぎ方
目的があいまい何をもって成功とするかが決まらず、続けるかどうかを判断できない「何の時間を、どのくらい減らすか」を始める前に1文で書く
対象を欲張る複数の業務を同時に試し、どれが効いたのか、どこで問題が起きたのかがわからない最初は1業務に絞り、結果が出てから次の業務に広げる
担当者に任せきり現場が忙しく試運転が後回しになり、記録も残らない経営者や管理職が途中で様子を聞き、試運転の時間を業務として確保する
最初の印象で判断する使い始めの数日の不慣れや小さな間違いで「使えない」と結論づけてしまう慣れるまでの期間を見込み、期間の終わりに数字で判断する
直す手段がないうまくいかない点が見つかっても、誰も設定を直せず、そのまま止まる試運転の期間中に調整できる体制を、社内か外部に用意しておく

特に見落とされやすいのが、最後の「直す手段がない」です。AIは最初から完璧に動くことは少なく、実際の書類や問い合わせに合わせた調整がほぼ必ず必要になります。試運転の価値は、この調整を小さな範囲で済ませられることにあります。調整できる人がいないまま試運転を始めると、問題が見つかっても直せず、本来は向いている業務まで「AIは合わない」と判断してしまうおそれがあります。

試運転のあとの判断基準と、本格導入への広げ方

試運転の結果は、次のように判断すると迷いにくくなります。

  • 続ける(本格導入):最初に決めた目標をおおむね達成し、担当者も使い続けたいと感じている
  • 直してもう一度試す:時間は減ったが確認の手間が多い、特定のケースだけうまくいかないなど、原因がはっきりしていて直せる見込みがある
  • やめる・対象を変える:手順が担当者ごとにばらばらで決められない、例外が多すぎるなど、AIに向かない業務だとわかった

「やめる」という結論も、試運転の大切な成果です。どの業務がAIに向かないかがわかれば、次はより向いている業務を選べます。

本格導入に進む場合は、まず試運転と同じ業務を担当しているほかの職員へ広げ、そのあと別の業務に展開する順番がおすすめです。試運転で担当者が気づいた注意点や、うまくいった使い方をまとめておくと、次の職員への説明がしやすくなります。

当社のAI社員は、初期費用+月5万円で、構築期間は内容に応じてジュニア2週間程度・ミドル1か月程度、最短2週間で稼働できます。試運転で見つかった調整点への対応も、月額の保守・相談の範囲で何度でも行います。まずは1つの業務で試し、効果を数字で確かめてから広げる進め方をおすすめしています。

よくある質問

試運転の期間はどのくらいが適切ですか?

毎日発生する業務なら1か月程度、月1回の業務なら2〜3回分を確保できる期間が目安です。慣れるまでの最初の数日は数字がぶれやすいため、少し余裕をもって設定してください。

導入前の数字を測っていない場合はどうすればよいですか?

今からでも、1〜2週間ほど今のやり方で作業時間や件数を記録してから試運転を始めることをおすすめします。難しい場合は、担当者の記憶による目安でも、ないよりは比較の手がかりになります。

試運転で効果が出なかったらどうなりますか?

原因がはっきりしていれば、AIへの指示やルールを直してもう一度試します。業務そのものがAIに向かないとわかった場合は、対象の業務を変えることを検討します。

試運転の対象には、どんな業務を選べばよいですか?

毎日・毎週くり返していて、手順がある程度決まっており、作業時間やミスの件数を測りやすい業務が向いています。受注書の入力や問い合わせへの初回返信などが代表的です。

執筆・監修

吉村 聡一郎の写真

株式会社MEDISITE 執行役員/AI事業責任者

吉村 聡一郎

株式会社アシロ(東証グロース市場)で営業統括責任者・新規事業開発責任者を経験。2022年、株式会社MEDISITEの創業メンバーとして参画し、AI事業・営業支援事業を統括。

  • AI導入・AI研修
  • 営業・新規事業

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