AIで浮いた時間は何に使うべきか——雑務に消えないための振り向け先の決め方と、社員への伝え方
結論
AIで浮いた時間は、経営者が導入前に「売上につながる仕事」「人の育成」「残業の削減」のどれに何割を回すかを決め、仕事の名前・担当者・時間帯まで具体的に落としておくことで、はじめて成果として見えるようになります。行き先を決めずにおくと、浮いた時間は細かな雑務や先送りしていた作業に自然と吸い込まれ、「AIを入れたのに何も変わらない」と感じる原因になります。社員には「楽になります」ではなく「浮いた時間で、これをお願いしたい」と、期待する仕事をセットで伝えるのが基本です。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、AIで削減した時間を、売上につながる仕事・人の育成・残業削減などに振り向ける決め方と、社内への伝え方について解説します。AIを入れて、受注の入力や問い合わせの一次返信にかかる時間は確かに減った。ところが数か月たっても、売上が伸びたわけでも、残業が目に見えて減ったわけでもない。担当者に聞くと「忙しさはあまり変わらない」と言う。AIを導入した会社の経営者から、こうした声をよく耳にします。原因の多くは、AIの効果が小さいことではなく、浮いた時間の行き先を誰も決めていないことにあります。この記事では、浮いた時間が雑務に吸い込まれてしまう理由、振り向け先の選び方、配分を決める手順、社員への伝え方、そして本当に使われているかを確かめる方法を、経営者の立場で説明します。効果の測り方そのものではなく、「浮いた時間をどう使うか」を決めることに絞ってお伝えします。
浮いた時間が雑務に吸い込まれるのは、行き先を決めていないから
AIで作業時間が減っても、その時間は自動的に価値のある仕事に回るわけではありません。むしろ、何もしなければ次のような理由で、目に見えない形で消えていきます。
- 時間が細切れで浮く:1日2時間の作業が15分になっても、浮いた時間は1日のあちこちに散らばり、まとまった仕事に使いにくい
- 先送りしていた作業が埋める:後回しにしていた整理や細かな確認が、空いた時間に流れ込む
- 担当者が自分では決めにくい:新しい仕事を始めてよいのか、誰に断ればよいのかがわからず、今ある仕事を丁寧にやり直す方向に時間が使われる
- 周りから見えない:時間が浮いたこと自体が共有されず、上司も新しい仕事を頼めない
どれも担当者の怠けではありません。「浮いた時間を何に使うか」は、本来は会社として決めることだからです。とくに社員が10〜50名ほどの会社では、一人が複数の仕事を兼ねていることが多く、浮いた時間はすぐに別の仕事に吸収されます。経営者が行き先を決めない限り、効果は「なんとなく少し楽になった」で終わってしまいます。
ポイント
浮いた時間の使い道は、AIを入れた後ではなく、入れる前に決めておくのが理想です。導入の目的を考える段階で「減らした時間で何をするか」まで決めておくと、効果を説明しやすくなります。
振り向け先は大きく3つ:売上につながる仕事・人の育成・残業の削減
浮いた時間の振り向け先は、会社によってさまざまですが、大きく分けると次の3つに整理できます。どれが正しいということはなく、会社が今いちばん困っていることに合わせて選びます。
| 振り向け先 | 具体的な仕事の例 | 向いている会社の状況 | 効果の見え方 |
|---|---|---|---|
| 売上につながる仕事 | 既存のお客様への連絡・フォロー、見積や提案の数を増やす、問い合わせへの返信を早める、新しい商品やサービスの準備 | 人手が足りず、営業やお客様対応が後回しになっている | 提案件数・成約・リピートなど。成果が出るまで数か月かかることがある |
| 人の育成 | 新人や若手への指導、マニュアルづくり、資格の勉強、担当者が休んでも回るような仕事の引き継ぎ | ベテランに仕事が集中している、採用した人が育ちきらない | 任せられる仕事の数、一人で対応できる社員の数。効果はゆっくり出る |
| 残業の削減 | 月末・月初の残業を減らす、休みを取りやすくする | 長時間労働が続いている、離職や採用の悩みがある | 残業時間・休日出勤の日数。翌月から数字で見えやすい |
このほか、「採用の予定を見送る・遅らせる」という使い方もあります。人を増やす前に、今いる社員の繰り返し作業をAIに任せて仕事の量を減らす考え方です。この場合も、浮いた時間で今いる社員が何を引き受けるのかを決めておかないと、結局また人手が足りなくなります。
導入事例から考える振り向け先
当社の導入事例でいうと、製造業(従業員30名規模)では受注書の入力が1日2時間から15分になりました。1日あたり1時間45分、月に20日働くとすると約35時間が浮く計算です。介護(職員50名規模)では、毎月のシフト作成が2日から半日になり、毎月1日半の時間が生まれています。こうしたまとまった時間を、たとえば既存のお客様への連絡や新人の指導に充てるのか、残業を減らすのかを決めるのが経営者の役割です。また、不動産(従業員15名規模)の例では、問い合わせへの初回返信が半日から10分になりました。このように、時間が浮くこと以上に「対応が早くなること」そのものが、売上につながる効果になる場合もあります。
浮いた時間の振り向け先を決める5つの手順
振り向け先は、経営者が一人で思いつきで決めるより、次の手順で数字と現場の声を合わせて決めると、社員にも説明しやすくなります。
- 浮く時間を「人ごと・週ごと」に見積もる:「会社全体で月35時間」ではなく、「受注担当のAさんが毎日1時間45分」のように、誰にどれくらい浮くかを出す
- 会社の今年の課題を1つ決める:売上を伸ばしたいのか、人を育てたいのか、残業を減らしたいのか。いちばん困っていることを1つ選ぶ
- 配分を割合で決める:たとえば「浮いた時間の半分は既存のお客様への連絡、残りは残業の削減」のように、大まかな割合を決める
- 仕事の名前・担当者・時間帯まで落とす:「毎週火曜と木曜の午後2時間は、Aさんが既存のお客様に電話する」のように、カレンダーに書ける形にする
- 1か月後に見直す:決めた仕事が実際にできたか、浮いた時間が別の雑務に流れていないかを確かめ、配分を直す
細切れの時間は「まとめて」使えるようにする
手順4がいちばん大切です。浮いた時間が細切れのままだと、まとまった仕事には使えません。次のような工夫で、まとまった時間に変えます。
- AIの結果の確認を、1日2回など決まった時間にまとめる
- 週のうち特定の曜日の午後を、振り向け先の仕事の時間として予定表に入れる
- 複数の社員の浮いた時間を合わせて、一人にまとまった仕事を任せる
当社自身も、AIで削減した時間は月約480時間、浮いた人件費にすると月約100万円(社員3名分)になっています。これだけの時間でも、行き先を決めなければ、社内のあちこちに散ってしまう量です。規模が小さい会社ほど、行き先を具体的に決める効果は大きくなります。
社員には「楽になる」ではなく「浮いた時間で何をしてほしいか」を伝える
浮いた時間の使い道を社員に伝えるときは、言い方ひとつで受け止め方が大きく変わります。「AIで楽になるよ」とだけ伝えると、社員は「では自分の仕事はなくなるのか」と不安になったり、反対に新しい仕事を頼まれたときに「話が違う」と感じたりします。
| 避けたい伝え方 | 起きやすいこと | おすすめの伝え方 |
|---|---|---|
| 「AIで仕事が楽になる」 | 新しい仕事を頼むと不満が出る | 「入力の時間が減るので、その分をお客様への連絡に使ってほしい」 |
| 「空いた時間は自由に使って」 | 雑務や作業のやり直しに消える | 「火曜と木曜の午後は、新人の指導の時間にしてほしい」 |
| 「これで人を減らせる」 | AIを使わなくなる、隠れて元のやり方に戻す | 「今いるメンバーで、これまで手が回らなかった仕事をしたい」 |
| 何も伝えない | 時間が浮いたこと自体が共有されない | 導入の説明のときに、浮いた時間の使い道まで一緒に話す |
伝えるときの順番
- AIを入れる目的(会社として何を良くしたいか)
- AIに任せる作業と、それで浮く時間の見込み
- 浮いた時間でお願いしたい仕事と、その理由
- 雇用や評価への影響についての会社の考え方
- 1か月後に一緒に振り返ること
とくに4つ目は、正直に伝えることが大切です。浮いた時間を人員削減に結び付けるかどうかは、社員がいちばん気にする点です。会社の方針をはっきり伝えることで、社員は安心してAIを使い、浮いた時間を新しい仕事に回せるようになります。AI導入そのものの説明の進め方は、「AI導入を社員にどう説明すればよいか」の記事でくわしく取り上げています。
ポイント
浮いた時間で始めた仕事は、評価の対象にもしましょう。「AIで浮いた時間で既存のお客様に連絡し、追加の注文につながった」といった成果を評価すると、社員が自分から時間の使い道を考えるようになります。
振り向け先ごとに気をつけたいこと
どの振り向け先を選んでも、つまずきやすい点があります。先に知っておくと、途中で使い道がうやむやになるのを防げます。
売上につながる仕事に回す場合
営業やお客様対応は、成果が出るまでに時間がかかります。最初の1〜2か月で売上が変わらなくても、「連絡した件数」「出した提案の数」など、行動の数を見て続けるかどうかを判断します。また、営業が得意でない担当者に急に営業を任せると負担になるため、得意な人に時間を集める工夫も必要です。
人の育成に回す場合
育成は、いちばん後回しにされやすい使い道です。「時間があるときに教える」では、まず実行されません。指導の時間を予定表に固定し、教える内容(どの仕事を、いつまでに一人でできるようにするか)を決めておきます。
残業の削減に回す場合
残業が減ると、残業代を生活費の一部にしていた社員の手取りが減ることがあります。会社としての受け止め方(賞与や評価にどう反映するかなど)を考えておくと、社員の協力を得やすくなります。労働時間や賃金の扱いは法律や就業規則に関わるため、制度を変える場合は、最新の情報を厚生労働省などの公式サイトで確認し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談してください。
振り向け先を決めたら確認したいこと
- 振り向け先の仕事に、担当者と時間帯が決まっている
- その仕事が得意な人、またはやってみたい人に任せている
- 成果が出るまでの間に見る「行動の数」が決まっている
- 残業代や評価への影響について、会社の考え方を社員に伝えている
- 1か月後に振り返る日が予定表に入っている
浮いた時間が本当に使われているかは、月1回の振り返りで確かめる
使い道を決めても、日々の仕事に追われるうちに、元のやり方に戻ってしまうことがあります。月に1回、短い時間でよいので、次の3つを振り返ります。
| 確かめること | 見る数字・中身の例 | うまくいっていないときの直し方 |
|---|---|---|
| 時間は浮いているか | AIに任せた作業の時間、確認にかかる時間 | 確認や手直しが多ければ、AIの仕組みや指示の内容を見直す |
| 決めた仕事に使えたか | 予定表に入れた時間に、実際にその仕事ができた割合 | 別の雑務に流れていれば、その雑務を誰が持つか決め直す |
| 成果につながっているか | 連絡件数・提案数、一人でできる仕事の数、残業時間 | 成果が見えなければ、振り向け先そのものを変える |
効果の測り方や、社内への報告の仕方は「AI導入の効果は本番稼働後にどう測り、社内に報告する?」の記事でくわしく説明しています。この記事でお伝えした「浮いた時間の使い道」は、その報告の中で「時間を何に使い、何が変わったか」として伝えると、経営会議でも現場でも効果が伝わりやすくなります。
当社が提供する「AI社員」は、初期費用+月5万円(初期費用はヒアリング後にお見積もり)で、業務の仕組みづくりから導入後の調整までをお引き受けしています。月額には保守・相談・メンテナンスが無制限で含まれるため、「どの作業をAIに任せれば、どれくらい時間が浮くか」の見積もりや、浮いた時間を生かすための次の業務選びのご相談も同じ窓口で進められます。AIを入れる前の段階で、「浮いた時間で何をしたいか」から一緒に考えることもできますので、お気軽にご相談ください。
よくある質問
AIで削減した時間は何に使えばよいですか?
大きく分けて、売上につながる仕事、人の育成、残業の削減の3つがあります。会社が今いちばん困っていることに合わせて経営者が選び、仕事の名前と担当者、時間帯まで決めておくと、浮いた時間が雑務に消えずに済みます。
AIを入れたのに忙しさが変わらないのはなぜですか?
浮いた時間の行き先が決まっていないため、細かな雑務や先送りしていた作業に自然と吸い込まれていることが多いです。浮いた時間を人ごとに見える形にし、使い道を決めて予定表に入れると、効果が見えるようになります。
AIで時間が浮いたら、人員を減らすべきですか?
必ずしも減らす必要はなく、これまで手が回らなかった仕事や育成に回す、採用を見送るといった選び方もあります。どの方針をとる場合も、雇用や評価への影響は導入前に社員へ正直に伝えることが大切です。
浮いた時間をうまく使えているかは、どう確かめればよいですか?
月に1回、時間が浮いているか、決めた仕事に使えたか、成果につながっているかの3点を振り返ります。決めた仕事に使えていなければ、流れ込んでいる雑務を誰が持つかを決め直します。