取引先から届く請求書の処理をAIで自動化するには?——受け取った請求書の読み取り・発注との照合・支払予定の登録まで
結論
取引先から届く請求書の処理は、AIが請求書の金額・品目・支払期日を読み取り、発注書や納品の記録と照らし合わせて支払予定の下書きを作り、合わないものだけを経理担当者が確認する形にすることで自動化できます。人の作業は「1枚ずつ入力して見比べる」から「AIが印を付けた食い違いを確かめる」に変わります。最初に照合の基準と、食い違ったときに誰に確認するかを決めておくことが、うまく回すための条件です。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、取引先から届く請求書(受け取り側)の読み取り・発注や納品との照合・支払予定の登録をAIで効率化する方法について解説します。月末から月初にかけて、取引先からの請求書がメール・郵送・取引先のサイトとばらばらに届く。1枚ずつ開いて金額を会計ソフトや支払の一覧に入力し、発注した内容や納品された数と合っているかを見比べ、合わなければ現場や取引先に確認する。経理の責任者であれば、この作業が毎月の締めを圧迫していることを実感しているのではないでしょうか。この記事では、請求書を発行する側ではなく、受け取る側の処理をAIで効率化する方法を説明します。AIに任せられる作業と人が残す作業の分け方、照合の基準の決め方、食い違いの扱い、始める手順と注意点をお伝えします。
受け取った請求書の処理で時間がかかるのは「入力」より「照合と確認」
受け取った請求書の処理は、大きく次の5つの作業に分けられます。
| 作業 | 内容 | 手間がかかる理由 |
|---|---|---|
| 受け取り | メール・郵送・取引先のサイトから請求書を集める | 届く場所がばらばらで、取りこぼしが出る |
| 読み取り・入力 | 取引先名・金額・支払期日・品目を入力する | 形式が取引先ごとに違う |
| 照合 | 発注した内容・納品された数・単価と見比べる | 発注書や納品の記録が別の場所にある |
| 確認・問い合わせ | 合わないものを現場や取引先に確認する | 誰に聞けばよいかわからず、返事も遅い |
| 支払予定の登録 | 支払日ごとに一覧にし、承認を受ける | 締めの直前に作業が集中する |
多くの会社で時間を取られているのは、実は入力そのものよりも、照合と確認です。発注書は購買担当のフォルダ、納品の記録は現場のスプレッドシート、単価の取り決めはメールの中、というように情報が散らばっているため、1枚の請求書を確かめるのに何か所も見に行く必要があります。AIを使う価値が大きいのは、この「散らばった情報を集めて見比べる」部分です。
AIに任せる作業と人が残す作業の分け方
受け取った請求書の処理をAIで効率化するときの分担は、次のようになります。
- AI:請求書を集めて読み取る:決まったメールアドレスや共有フォルダに届いた請求書を読み取り、取引先名・請求金額・税額・支払期日・品目と数量を一覧にする
- AI:発注と納品の記録と照らし合わせる:同じ取引先の発注書や納品の記録を探し、品目・数量・単価・金額が合っているかを見比べる
- AI:結果に印を付ける:「一致」「金額の差あり」「対応する発注が見つからない」「二重請求の疑い」などの印を付け、理由を一言添える
- 人:食い違いを確かめる:印が付いたものだけを経理担当者が確認し、必要なら現場や取引先に問い合わせる
- AI:支払予定の下書きを作る:確認が済んだものを支払日ごとにまとめ、承認用の一覧を作る
- 人:承認して支払う:責任者が一覧を承認し、支払の手続きを行う
ポイント
お金を払う判断と、実際の振込の操作は必ず人が行います。AIはあくまで「確認しやすい状態にそろえる」役割で、支払そのものを自動で行わせないことが安全に使うための前提です。
この分担にすると、すべての請求書を1枚ずつ見比べる作業がなくなり、経理担当者は「一致しなかったもの」に時間を集中できます。
照合の基準を先に決める:何が合えば「一致」とするか
AIに照合を任せるには、「何と何が合えば一致とするか」をあらかじめ決めておく必要があります。基準があいまいだと、AIの判定もぶれてしまいます。
照合の基準として決めておくこと
- 照らし合わせる相手は何か(発注書・納品書・検収の記録・契約書のどれか)
- どの項目が合えば一致とするか(取引先・品目・数量・単価・合計金額)
- 端数や送料など、少額の差をどこまで許すか
- 毎月決まった金額の請求(家賃・保守料など)は、何と比べるか
- 発注書を出さずに買ったもの(少額の消耗品など)をどう扱うか
- 同じ請求書が二度届いたときに、何を見て重複と判断するか
特に「発注書を出さずに買ったもの」と「毎月決まった金額の請求」は、照らし合わせる相手がないため、AIが「対応する発注が見つからない」と判定し続けることになります。前者は購入の申請の記録、後者は契約内容の一覧と比べる、というように、相手を決めておくと判定が安定します。
また、インボイス制度(適格請求書等保存方式)のもとでは、請求書に登録番号などの記載が必要な場合があります。AIに「登録番号が書かれているか」を確かめさせることもできますが、制度の扱いは取引の内容によって異なることがあるため、判断に迷うものは税理士など専門家に確認し、最新の情報は国税庁の案内で確かめてください。
食い違いが見つかったときの扱いを決めておく
照合を自動にしても、食い違いの確認がいつまでも終わらなければ、締めは早くなりません。食い違いの種類ごとに、誰に確認し、いつまでに返事をもらうかを決めておきます。
| 食い違いの種類 | よくある原因 | 確認する相手 |
|---|---|---|
| 数量の差 | 分納・返品・追加注文 | 発注した現場の担当者 |
| 単価の差 | 値上げの連絡漏れ・取り決めの誤り | 購買担当者・取引先 |
| 対応する発注がない | 口頭での発注・発注書の出し忘れ | 発注したと思われる部署 |
| 二重請求の疑い | 同じ請求書の再送・訂正版の送付 | 取引先 |
AIには、確認する相手に送る問い合わせ文の下書きを作らせることもできます。「〇月〇日発注の△△について、発注数は10個ですが、請求は12個になっています。追加の発注があったか、ご確認いただけますか」のように、何がどう違うのかを具体的に書いた文面にすると、相手も返事をしやすくなります。
確認の結果は、次回以降の判定に生かします。「この取引先は毎回送料を別行で請求する」「この品目は分納が多い」といった傾向をルールに足していくと、印が付く件数が少しずつ減っていきます。
始める手順:受け取り口をそろえ、件数の多い取引先から
受け取った請求書の処理をAIで効率化するときは、次の順番で進めると無理がありません。
- 受け取り口をそろえる:請求書を受け取るメールアドレスや共有フォルダを1つに決め、郵送の請求書はスキャンして同じ場所に入れる
- 照らし合わせる記録の場所を確かめる:発注書・納品の記録・契約の一覧がどこにあり、どんな形式かを洗い出す
- 件数の多い取引先から始める:毎月の請求書の多くを占める取引先に絞って、読み取りと照合を試す
- 1〜2か月は人の照合と並べて確かめる:AIの判定と人の判定を比べ、見落としや誤った判定がないかを確認する
- 取引先と基準を広げる:判定が安定したら、対象の取引先を増やし、支払予定の下書きまでつなげる
当社が支援した製造業(従業員30名規模)の事務担当の方の例では、受注書の入力を1日2時間から15分に短縮しました。こちらは受け取る請求書ではなく受注書の例ですが、「形式がばらばらの書類をAIが読み取り、人は確認だけにする」という考え方は同じです。
なお、会計ソフトによっては請求書の読み取り機能を備えているものもあります。すでに使っている道具でできる部分はそれを生かし、発注や納品の記録との照合のように、道具の間をまたぐ部分をAIで補うと、無駄なく進められます。
受け取った請求書をAIで処理するときの注意点
受け取った請求書の処理はお金の支払いに直結するため、AIを使うときにはいくつか気をつけたい点があります。
振込先の変更には特に注意する
取引先を名乗って「振込先の口座が変わりました」と連絡し、別の口座にお金を振り込ませる詐欺が知られています。請求書に書かれた振込先が、これまでの登録と違う場合は、AIに必ず印を付けさせ、人が取引先に電話など別の手段で確かめる手順にしておきます。AIが読み取った振込先を、そのまま支払の登録に使わないことが大切です。
読み取りの誤りを前提にする
AIの読み取りは便利ですが、数字の読み違いや、桁のずれが起きることがあります。照合で「一致」となったものは心配が少ないものの、照合の相手がない請求書や、金額の大きい請求書は、人が元の請求書を見て確かめるルールにしておくと安心です。
保存のルールを確かめる
受け取った請求書は、税務上の保存が必要な書類です。電子で受け取った請求書の保存方法については、電子帳簿保存法で決まりが設けられている場合があります。AIの仕組みに取り込んだ後も、元の請求書をどこに、どの形で保存するかを決めておき、最新の扱いは国税庁の案内や税理士に確認してください。
見られる人を限る
請求書には、取引先との取引条件や金額が書かれています。AIが読み取った一覧や、元の請求書を保存する場所は、経理と関係する担当者だけが見られるように権限を設定しておきます。
運用を始める前に確かめること
- 振込先が変わったときに、別の手段で確かめる手順があるか
- 金額の大きい請求書を人が直接確かめる基準を決めたか
- 元の請求書の保存場所と保存方法を決めたか
- 一覧と請求書を見られる人を限ったか
- 支払の承認と振込は人が行う流れになっているか
よくある質問
受け取った請求書の処理は、AIでどこまで自動化できますか?
請求書の読み取り、発注書や納品の記録との照合、食い違いへの印付け、支払予定の下書きまではAIに任せられます。食い違いの確認と支払の承認・振込は人が行います。
紙で郵送されてくる請求書もAIで処理できますか?
スキャンしてPDFや画像にすれば読み取れます。読み取りの精度は書類の状態によるため、読めなかった項目は人が確認する流れを用意しておきます。
請求書の自動化は、発行する側と受け取る側のどちらから始めるべきですか?
毎月の手間が大きいほうから始めるのが基本です。取引先が多く照合に時間がかかっている会社は受け取る側、請求先が多く作成と送付に追われている会社は発行する側から始めると効果が出やすくなります。
AIの照合で二重払いや払い漏れは防げますか?
同じ請求書番号や金額・日付の重複を検出して印を付けることで、二重払いの見落としを減らせます。ただし最終的な判断は人が行い、承認の手順は残しておくことが大切です。