社内の質問にAIで答える仕組みの作り方——マニュアル・規程・手続きの問い合わせを減らす手順
結論
社内の質問にAIで答える仕組みは、マニュアル・就業規則・手続きの案内などの社内資料をAIが検索できる場所にまとめ、質問が来たら該当する資料を探して、その根拠を示しながら答えさせることで作れます。総務や経理、ベテラン社員に集まっていた「同じ質問」をAIが一次対応し、AIが答えられない質問だけを担当者に回す形にすることで、聞く側も答える側も手間が減ります。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、社内の質問(マニュアル・規程・手続き)にAIで答える仕組みの作り方について解説します。「交通費の申請はどうするのか」「有給休暇は何日残っているか」「この見積書の書式はどこにあるか」。こうした社内の質問は1つひとつは小さくても、総務や経理の担当者、ベテラン社員の時間を少しずつ奪っていきます。この記事では、社内の質問にAIで答える仕組みがどう動くのか、どう作るのか、作るときに気をつけることは何かを説明します。
社内の質問対応が負担になる3つの理由
社内の質問対応は、売上に直接つながらないため後回しにされがちですが、多くの会社で次のような負担を生んでいます。
- 同じ質問がくり返し来る:経費精算の方法、休暇の申請、備品の注文など、毎年・毎月同じ質問が届き、担当者はそのたびに同じ説明をしている
- 答えられる人が限られる:規程の細かい部分や過去の経緯を知っている人が一部に偏り、その人の仕事が質問対応で中断される
- 資料があっても探せない:マニュアルや規程は作ってあるのに、どこにあるか、どの版が最新かがわからず、結局人に聞くことになる
聞く側にとっても、「忙しそうで聞きにくい」「担当者が不在で答えがもらえない」という状態は、仕事が止まる原因になります。特に新しく入った社員ほど質問が多く、教える側と教わる側の両方の負担が大きくなります。
社内の質問対応をAIに任せるとどう変わるか
| 項目 | 人が答える場合 | AIが一次対応する場合 |
|---|---|---|
| 答えが返ってくるまで | 担当者の手が空くまで待つ | 質問したその場で返ってくる |
| 夜間や担当者の不在時 | 翌日以降になる | 資料にある内容なら答えられる |
| 答えの内容 | 答える人によって説明が違うことがある | 同じ資料をもとに答えるのでそろいやすい |
| 担当者の仕事 | 同じ説明をくり返す | AIが答えられない質問と資料の更新に集中する |
担当者の仕事がなくなるわけではありませんが、くり返しの説明から解放され、個別の判断が必要な相談や、資料そのものを良くする仕事に時間を使えるようになります。
仕組み:AIが社内資料を探し、根拠を示して答える
社内の質問に答えるAIは、一般的なチャット型のAIに質問するのとは少し違う仕組みで動きます。一般的なAIは社内の決まりを知らないため、そのまま質問しても、もっともらしいけれど自社には当てはまらない答えを返してしまいます。
そこで、次のような流れで答えさせます。
- 社員が質問する:社内チャットや専用の画面から、ふだんの言葉で質問する
- AIが社内資料を探す:マニュアル・規程・手続きの案内などの中から、質問に関係する部分を探す
- 見つけた資料をもとに答える:探した資料の内容だけをもとに回答を作り、どの資料のどこに書いてあるかを添える
- 答えられないときは担当者に回す:資料に書かれていない質問や、個別の判断が必要な質問は、担当者への問い合わせを案内する
このように、社内資料を検索してから答えを作る仕組みは、専門用語で「RAG(検索拡張生成)」と呼ばれます。難しく考える必要はなく、「AIに社内の資料棚を持たせて、答える前に必ず資料を確認させる」とイメージするとわかりやすいでしょう。
ポイント
回答に「根拠の資料名」を必ず添えるようにすると、社員が自分で原文を確かめられます。AIの回答が正しいかどうかを確認しやすくなり、安心して使ってもらえます。
社内の質問に答えるAIの作り方5ステップ
社内の質問に答えるAIは、次の順番で作るとつまずきにくくなります。
- よくある質問を集める:総務・経理・人事などの担当者に、くり返し聞かれる質問を書き出してもらいます。社内チャットやメールの履歴を見返すのも有効です
- 答えの元になる資料を集める:就業規則、経費精算のマニュアル、申請書の書き方、社内システムの使い方などを集め、古い版を外して最新版だけにします
- 対象範囲を決めて試作する:最初から全社の全分野を対象にせず、「経費精算と休暇申請」のように質問の多い分野に絞って作ります
- 実際の質問で試す:手順1で集めた質問をAIに投げ、回答が正しいか、根拠の資料が合っているかを担当者が確認します。答えを間違えた質問は、資料の書き方や足りない情報を見直します
- 一部の部署で使い始めて広げる:まず一部の部署で使い、聞かれた質問と答えられなかった質問を記録して、資料を追加しながら対象を広げます
どこから質問できるようにするかも大切
新しい画面を用意するより、社員がふだん使っている社内チャットから質問できるほうが使われやすくなります。「わざわざ別の画面を開く」手間があるだけで、結局人に聞く習慣に戻ってしまうことがあるためです。
AIが正しく答えられるように社内資料を整えるコツ
社内の質問に答えるAIの精度は、元になる資料の質に大きく左右されます。AIの仕組みを工夫するより、資料を整えるほうが効果が出ることも少なくありません。
資料の整え方チェックリスト
- 同じ内容の資料が複数あるときは、最新版だけを残している
- 資料ごとに、いつ改定したかがわかるようになっている
- 「詳しくは担当者へ」など、資料の外に答えがある書き方を減らしている
- 社内だけで通じる略語や呼び名に、正式な名前を併記している
- 手順は番号付きで書き、どの画面で何をするかがわかる
- 画像だけで説明している部分に、文章での説明を添えている
特に注意したいのは、規程が改定されたときです。古い規程が資料の中に残っていると、AIが古いルールで答えてしまうおそれがあります。資料を更新する担当者と手順を決めておき、改定のたびにAIが参照する資料も入れ替えるようにします。
質問の種類によって答え方を分ける
| 質問の種類 | 例 | AIの対応 |
|---|---|---|
| 手続きの方法 | 交通費の申請方法、備品の注文先 | 資料をもとに手順を答える |
| 規程の内容 | 慶弔休暇の日数、出張の日当 | 規程の該当箇所を示して答える |
| 個人に関する情報 | 自分の有給休暇の残り日数 | 勤怠システムの確認方法を案内する、または担当者に回す |
| 個別の判断が必要 | この経費は精算できるか | 判断の目安を示したうえで担当者に回す |
導入時の注意点:間違った回答・閲覧権限・情報管理
間違った回答への備え
AIは、資料に書かれていないことを推測で答えてしまうことがあります。資料に答えがない場合は「資料に記載がありません」と答え、担当者への問い合わせを案内するように設定しておきます。また、給与や評価、懲戒など影響の大きい内容は、AIの回答を参考情報と位置づけ、最終的な確認は担当者が行うルールにしておくと安心です。
閲覧権限を分ける
社内資料の中には、役員だけが見られる資料や、人事部門だけが扱う資料もあります。すべての資料を同じAIに読み込ませると、本来見られない人にその内容が答えとして出てしまうおそれがあります。一般社員向けの資料と、限られた人だけが見られる資料は分けて扱い、質問した人の立場に応じて参照できる資料を制限します。
社内の情報を外に出さない
社内資料をAIで扱うため、入力したデータがAIの学習に使われない法人向けのサービスや設定を選ぶこと、資料の保存場所や利用記録の扱いを事前に決めておくことが大切です。個人情報を含む資料を扱う場合は、社内のルールや関係する法令を確認してください。
使われ続けるAIにするための運用のコツ
社内の質問に答えるAIは、作った直後よりも、使い続けて資料を足していくことで役に立つようになります。定着させるには、次の点を意識します。
- 答えられなかった質問を記録する:AIが答えられなかった質問は、資料が足りていないサインです。定期的に見直し、資料を追加します
- 担当者の答えを資料に戻す:担当者に回った質問の答えを、よくある質問として資料に追加すると、次からはAIが答えられるようになります
- 「まずAIに聞く」を社内に案内する:担当者が質問を受けたときに、AIでの聞き方を案内するだけでも、使う人が増えていきます
当社では、こうした社内の質問対応を担当する仕組みを「AI社員」として構築し、導入後も資料の追加や答え方の調整を月5万円の範囲で継続してお手伝いしています。社内で調整できる人がいない場合は、導入後の更新を誰が担うかを最初に決めておくことが、使われ続けるための一番の近道です。
よくある質問
社内の資料が整っていなくても導入できますか?
導入できますが、まず質問の多い分野の資料を整えるところから始めるのが現実的です。資料がない分野は、担当者がふだん答えている内容を文章にまとめるだけでも、AIが答えられる範囲が広がります。
AIが間違った答えを返したらどうなりますか?
間違える可能性はあるため、回答には根拠の資料名を添え、社員が原文を確認できるようにします。資料に答えがない場合は担当者に回すように設定し、影響の大きい内容は担当者が最終確認するルールにしておくと安心です。
役員向けや人事の資料も読み込ませて大丈夫ですか?
すべてを同じように読み込ませると、本来見られない人に内容が伝わるおそれがあります。閲覧できる人が限られる資料は分けて扱い、質問した人の立場に応じて参照できる資料を制限することが必要です。
社内チャットから質問できるようにできますか?
多くの場合できます。社員がふだん使っている社内チャットから質問できるようにしたほうが使われやすいため、利用中のツールに合わせて仕組みをつくります。