AIの社内ルール(利用規定・ガイドライン)の作り方——入れるべき7項目と小さな会社での決め方・広め方
結論
社内のAI利用ルールは、「使ってよいツールと設定」「入力してはいけない情報」「AIの出力を確認してから使うこと」「困ったときの相談先」の4つを中心に、誰でも読める1〜2枚の文書にまとめるのが基本です。最初から完璧なものを目指さず、小さく作って使いながら見直すほうが、小さな会社では定着しやすくなります。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、社内のAI利用ルール(ガイドライン)の作り方について解説します。社員が仕事でAIを使い始めると、「お客様の情報を入れてもよいのか」「AIが作った文章をそのまま出してよいのか」といった疑問が出てきます。ルールがないまま使うと情報漏えいなどのリスクがあり、逆に禁止するだけでは便利さを活かせません。この記事では、中小企業がAI利用ルール(ガイドライン)を作るときに入れるべき項目、チェックリスト、社内への広め方を説明します。
AI利用ルールが必要な理由は「禁止」ではなく「安心して使うため」
AI利用ルール(ガイドライン)とは、社員が仕事でAIを使うときに守ること、してはいけないこと、困ったときの対応をまとめた社内の決まりです。
ルールが必要な理由は、大きく次の3つです。
- 情報を守るため:お客様の個人情報や取引先の情報、社内の機密情報を、意図せず社外のサービスに入力してしまうことを防ぐ
- 品質を守るため:AIはもっともらしい誤りを出すことがあるため、確認せずに使って、誤った情報をお客様に伝えることを防ぐ
- 社員が迷わないため:「使ってよいのかわからない」状態では、便利なのに誰も使わないか、逆に各自が自己流で使ってしまう
大切なのは、ルールの目的を「禁止」ではなく「安心して使うため」に置くことです。全面禁止にすると、社員が個人のスマホなどで隠れて使う、いわゆる「シャドーAI」(会社が把握していないAIの利用)が起きやすくなり、かえってリスクが高まります。
AI利用ルールに入れるべき7つの項目
中小企業のAI利用ルールには、次の7つの項目を入れておくと、よくある疑問の多くに答えられます。
| 項目 | 決めること | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 1. 目的 | 何のためにAIを使うか | 業務を効率化し、社員がより大切な仕事に時間を使えるようにする |
| 2. 使ってよいツール | 会社が認めたサービスと設定 | 会社が契約した法人向けのサービスを使う。個人のアカウントは使わない |
| 3. 入力してはいけない情報 | 入力禁止・条件付きの情報 | お客様の個人情報、取引先から預かった秘密情報、パスワードは入力しない |
| 4. 出力の確認 | AIの出力の扱い方 | 社外に出すものは、必ず人が内容を確認してから使う |
| 5. 権利への配慮 | 著作権などへの注意 | 他人の文章や画像をそのまま使わない。生成物の利用は内容を確認する |
| 6. 相談先と報告 | 迷ったとき・問題が起きたとき | 判断に迷ったら担当者に相談する。誤って入力した場合はすぐ報告する |
| 7. 見直し | ルールの更新時期 | 半年に一度、または新しいツールを入れるときに見直す |
特に重要なのは、2の「使ってよいツール」と3の「入力してはいけない情報」です。多くの法人向けサービスでは、入力したデータをAIの学習に使わない設定が用意されています。会社として使うサービスと設定を決めておけば、社員は迷わずに使えます。
ポイント
「入力してはいけない情報」は、抽象的な言葉ではなく具体例で書きます。「機密情報」と書くより、「見積書の金額」「お客様の氏名と電話番号」のように書いたほうが、社員は判断しやすくなります。
ルール作りで確認したいチェックリスト
ルールを作り終えたら、次のチェックリストで抜け漏れがないか確認してください。
AI利用ルールのチェックリスト
- AIを使う目的が書かれているか
- 会社として使ってよいサービスと、その設定(学習に使わない設定など)が決まっているか
- 入力してはいけない情報が、具体例つきで書かれているか
- 個人情報の扱いについて、社内の個人情報の取り扱いルールと矛盾していないか
- AIの出力を人が確認してから使うことが書かれているか
- お客様に出す文書や数字は、特に注意して確認することが書かれているか
- 他人の著作物の扱いなど、権利への配慮が書かれているか
- 迷ったときの相談先と、誤って入力したときの報告先が書かれているか
- ルールを見直す時期と、見直す担当者が決まっているか
- 全体が1〜2枚に収まり、社員が読み切れる長さになっているか
個人情報や著作権に関わる部分は、法令や国のガイドラインに関係します。考え方は改正や新しい指針によって変わることがあるため、個人情報保護委員会や文化庁、経済産業省などが公開している最新の情報を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。
小さな会社でAI利用ルールを作る手順
10〜50名規模の会社であれば、大がかりな委員会を作る必要はありません。次の手順で、短期間で作れます。
- 今の使われ方を聞く:社員がすでにどんなAIを、どんな仕事に使っているかを聞き取ります。叱るためではなく、実態を知るためだと伝えます
- 担当者を1人決める:総務や情報システムの担当者など、ルールの窓口になる人を決めます
- 使うサービスと設定を決める:会社として契約するサービスを選び、学習に使わない設定などを確認します
- たたき台を1〜2枚で作る:上の7つの項目に沿って、具体例を入れて書きます。AIにたたき台を作らせて、人が手直しするのも1つの方法です
- 数人に読んでもらう:実際にAIを使う社員に読んでもらい、わかりにくい箇所を直します
- 全社に共有して始める:説明の場を設け、質問を受け付けます
- 使いながら見直す:寄せられた質問や困りごとをもとに、定期的に更新します
最初から細かいルールを作り込むと、読まれない文書になりがちです。まずは「これだけは守る」という最小限の内容で始め、使いながら足していくほうが、小さな会社には合っています。
ルールを社内に定着させるコツ
具体的な使い方の例をセットで示す
「やってはいけないこと」だけでなく、「こういう仕事にはどんどん使ってよい」という例も示すと、社員は前向きに使い始められます。たとえば、社内向けの文章の下書き、会議メモの整理、よくある質問への回答案づくりなどです。
迷ったら聞ける雰囲気をつくる
ルールに書かれていないケースは必ず出てきます。担当者に気軽に聞ける窓口を用意し、出てきた質問とその答えをルールに追記していくと、ルールが会社の実態に合ったものになっていきます。
誤って入力したときは責めずに報告してもらう
誤って入力してしまったときに隠されるのが最も危険です。すぐ報告すれば対応できることを伝え、報告しやすい雰囲気をつくります。
業務への組み込みは仕組みで行う
社員一人ひとりの使い方に任せるだけでなく、受注の入力や問い合わせへの回答案づくりのように、決まった業務をAIに任せる仕組みを作ると、ルールに沿った使い方が自然に守られます。当社のAI社員は、使うサービスや入力する情報の範囲をあらかじめ決めたうえで、業務の担当として構築します。料金は初期費用+月5万円(AI利用料は実費)で、運用ルールの相談も月額の中で対応しています。
よくある質問
AI利用ルールは、どのくらいの分量にすればよいですか?
最初は1〜2枚程度で十分です。全員が読み切れる長さにして、使いながら必要な項目を足していくほうが定着しやすくなります。
AIの利用を全面的に禁止したほうが安全ではないですか?
全面禁止にすると、会社が把握しない形で個人的に使われるおそれがあり、かえってリスクが高まる場合があります。使ってよいサービスと入力してよい情報を決めて、安心して使える形にするのがおすすめです。
お客様の個人情報は、AIに一切入力してはいけませんか?
会社として認めたサービスと設定、利用目的、保存場所などの条件を決めたうえで扱う方法もありますが、判断は慎重に行う必要があります。個人情報保護委員会などの最新の情報を確認し、迷う場合は専門家に相談してください。
ルールは一度作れば終わりですか?
AIのサービスや関係する法令・指針は変わることがあるため、半年に一度や新しいツールを入れるときなど、定期的に見直すことをおすすめします。