生成AIのガイドラインとは?——国の指針に書かれていることと、中小企業が自社ルールに落とすときに押さえる点
結論
生成AIのガイドラインとは、生成AIを安全に、責任を持って使うための考え方や注意点をまとめた指針のことで、国や業界団体が出す「外のガイドライン」と、会社が自社向けに決める「内のルール(社内の利用規程)」の2種類があります。外のガイドラインは方向性を示すもので、そのままでは現場で使えないため、中小企業は「AIを使う側」に向けた部分だけを拾い、自社の業務・情報・使うサービスに当てはめて社内ルールに書き直すのが近道です。拾う点は、入力してよい情報、使ってよいサービス、結果の確認、社外への説明、相談先の5つに絞れば十分です。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、生成AIのガイドラインの意味と、国などが出している公的なガイドラインの中身、中小企業がそれを自社の社内ルールに落とし込む手順について解説します。「生成AIのガイドラインを作っておいて」と社長から言われた。調べてみると、国のガイドライン、業界団体のガイドライン、自治体のガイドラインなど、似た名前の文書がたくさん出てきて、どれを読めばよいのか、自社で何を作ればよいのかがわからない。管理職の方から、こうしたご相談をよくいただきます。この記事では、生成AIのガイドラインとは何か、国などが出している公的なガイドラインにはどんなことが書かれているのか、そして中小企業がそこから何を拾って自社のルールに落とせばよいのかを順に説明します。社内ルールに入れる項目の作り方やひな形、作った後の運用は別の記事にまとめていますので、ここでは「外のガイドラインを、内のルールにつなぐ」ところに絞ってお伝えします。
生成AIのガイドラインとは:「外のガイドライン」と「内のルール」の2種類がある
生成AIのガイドラインとは、文章や画像を作るAI(生成AI)を、安全に、責任を持って使うための考え方や注意点をまとめた指針です。「ガイドライン」という言葉は、立場の違う2種類の文書に使われているため、最初に分けて考えると混乱しにくくなります。
| 比べる点 | 外のガイドライン(国・業界団体などの指針) | 内のルール(社内の利用規程) |
|---|---|---|
| 作る人 | 国の省庁、業界団体、自治体など | 自社(経営者・管理職・担当者) |
| 対象 | AIを作る会社・提供する会社・使う会社など、幅広い立場 | 自社の社員・パート・アルバイト |
| 書かれていること | 守るべき考え方、取り組みの方向性、注意すべきリスク | 使ってよいサービス、入力してよい情報、確認の手順、相談先など具体的な決まり |
| 守らなかったとき | 多くは法律のような罰則はない(ただし関係する法令は別に守る必要がある) | 社内の決まりとして扱う(就業規則などとの関係は会社ごとに決める) |
| 読む人 | 主に経営者・担当者 | AIを使うすべての社員 |
よくある失敗は、外のガイドラインを社員に配って「これを守ってください」と伝えることです。外のガイドラインは幅広い立場の会社に向けて書かれているため、自社の社員が「今この問い合わせ文をAIに貼ってよいか」を判断する材料としては、抽象的すぎます。外のガイドラインは「何に気をつけるべきか」を知るための教科書、内のルールは「自社ではこうする」を決めた手順書、と役割を分けて考えるのがおすすめです。
ポイント
「生成AIのガイドラインを作って」と言われたときに求められているのは、多くの場合、国の指針を読み込んだ報告書ではなく、社員が迷わず使える社内ルールです。依頼した人に、どちらを求めているかを最初に確かめておくと、作業の無駄が減ります。
国などが出している生成AIのガイドラインには、何が書かれているか
国の代表的なものとして、総務省と経済産業省が2024年に公表した「AI事業者ガイドライン」があります。これまで別々に出ていたAIに関する指針をまとめ直したもので、AIを作る会社だけでなく、AIを業務で使う会社も対象に含めているのが特徴です。内容は改訂されることがあるため、最新版は公式サイトで確認してください。
このガイドラインでは、AIにかかわる立場を大きく3つに分け、それぞれに求められることを整理しています。
| 立場 | どんな会社か | 中小企業との関係 |
|---|---|---|
| AI開発者 | AIの仕組みそのものを作る会社 | 多くの中小企業は当てはまらない |
| AI提供者 | AIを組み込んだサービスやシステムを、他社やお客様に提供する会社 | 自社のサービスにAIを組み込んでお客様に出す場合は当てはまることがある |
| AI利用者 | AIを業務で使う会社や個人 | 生成AIを仕事に使う会社のほとんどが当てはまる |
あわせて、立場にかかわらず大切にする共通の考え方として、人間中心であること、安全性、公平性、プライバシーの保護、セキュリティの確保、透明性(どう使っているかを説明できること)、アカウンタビリティ(説明責任)、教育・リテラシー(使う人の理解を高めること)などが挙げられています。
業界団体・自治体などのガイドラインもある
国の指針のほかにも、業界団体が自分たちの業界の業務に合わせて出しているガイドラインや、自治体が職員向けに作った利用ガイドラインなどが公開されています。業界団体のものは、その業界でよく扱う情報(患者の情報、設計図、お客様の契約内容など)に即した注意点が書かれていることが多く、同じ業界の会社には参考になります。自治体の職員向けガイドラインは、具体的な禁止例や確認の手順まで書かれているものもあり、社内ルールの書き方の見本として役立つことがあります。
個人情報や著作権など、生成AIの利用に関係する法令については、個人情報保護委員会や文化庁などが考え方や注意点を公表しています。法令にかかわる部分は扱いが変わることがあるため、断定せず、最新の情報を公式サイトで確認するようにしてください。
中小企業が外のガイドラインから押さえる点は「AI利用者」向けの5つ
外のガイドラインは分量が多く、すべてを読み込むのは中小企業の管理職には現実的ではありません。生成AIを業務で使うだけの会社であれば、「AI利用者」に向けた部分を中心に、次の5つの観点で拾っていけば足ります。
| 観点 | 外のガイドラインの考え方(要旨) | 社内ルールで決めること |
|---|---|---|
| 1. 入力する情報 | 個人情報や秘密の情報を不用意に入力しない。プライバシーとセキュリティを守る | 入力してはいけない情報の具体例、置き換えのやり方(名前を〇〇さんにする等) |
| 2. 使うサービス | サービスのデータの扱い(保存・学習への利用)を理解して選ぶ | 会社が認めたサービスの一覧、新しく使うときの申請の手順 |
| 3. 結果の確認 | AIの出力には誤りがありうる。人が判断に責任を持つ | 社外に出す文書・お金や契約に関わるものは人が確かめる、という決まり |
| 4. 説明と透明性 | AIをどう使っているか、必要に応じて説明できるようにする | お客様に出すものにAIを使ったとき、どこまで説明するかの目安 |
| 5. 教育と相談 | 使う人の理解を高め、問題が起きたときに対応できる体制を作る | 入社時の説明、迷ったときの相談先、事故が起きたときの報告先 |
この5つは、どの業界でもほぼ共通して必要になる項目です。業界団体のガイドラインがある場合は、この5つのうち特に「1. 入力する情報」の具体例を、業界の実情に合わせて足していくと、自社に合ったルールになります。
自社が「AI利用者」以外にも当てはまるか確かめるチェックリスト
- AIを組み込んだサービスや仕組みを、お客様や取引先に提供している
- お客様からの問い合わせに、AIが直接答える仕組みを公開している
- AIの判断結果を、お客様の審査や評価などに使っている
- AIに自社のデータを学習させた仕組みを、社外にも使ってもらっている
1つでも当てはまる場合は、「AI提供者」としての考え方(利用者への説明、問題が起きたときの対応など)も確かめておく必要があります。判断に迷う場合は、外部の専門家に相談してください。
外のガイドラインを社内ルールに落とす5つの手順
外のガイドラインを読んだあと、社内ルールに落とし込むまでの流れは次のとおりです。全体で数週間あれば、最初の版は作れます。
- 今の使われ方を集める:誰が、どのAIを、どの業務に使っているかを部署ごとに聞き取る。まだ使っていない部署では、使いたい業務を聞く
- 業務ごとに扱う情報を書き出す:その業務でAIに入力しそうな情報(顧客名、見積金額、社員の情報、取引先の資料など)を並べる
- 5つの観点に当てはめる:前の章の5つの観点ごとに、「この業務・この情報ならどうするか」を決める。外のガイドラインの要旨を、自社の言葉と具体例に書き直す
- 「使ってよい・条件付き・使ってはいけない」に分ける:決めた内容を3つの区分で整理し、社員が迷ったときに見る1枚の要点にまとめる
- 根拠と見直しの時期を残す:どのガイドラインのどの考え方を参考にしたかを社内向けにメモし、見直す時期(半年に1回など)を決めておく
書き直しの例:外の考え方を、自社の言葉にする
| 外のガイドラインの考え方(要旨) | 社内ルールの書き方の例 |
|---|---|
| プライバシーを保護する | お客様の名前・住所・電話番号は、AIに入力する前に「〇〇様」「(住所)」に置き換える |
| 人間が判断に責任を持つ | AIで作った見積書・請求書の金額は、担当者が元の資料と照らして確かめてから送る |
| セキュリティを確保する | AIは会社が契約したアカウントだけで使う。個人のアカウントで業務の情報を扱わない |
| 透明性を確保する | お客様向けの文章にAIを使ったときは、内容を担当者が確かめた上で、担当者の名前で出す |
| 教育・リテラシーを高める | 入社時にAI利用の要点を説明し、迷ったときは〇〇さん(相談先)にチャットで聞く |
このように、外のガイドラインの1つの考え方を、自社の業務の1つの行動に置き換えていくのが落とし込みの基本です。社内ルールに入れる項目の全体像は「AI利用規定・社内ルールの作り方」、そのまま使える条文は「生成AI利用規程のひな形」の記事で紹介しています。
外のガイドラインを読むときに管理職が気をつけたいこと
外のガイドラインを参考にするときは、次の点に気をつけると、自社ルールが現場から浮きにくくなります。
- 全部を取り込もうとしない:外のガイドラインはAIを作る会社向けの内容も多く含みます。自社の立場(多くはAI利用者)に関係する部分だけを拾います
- 禁止だけを増やさない:リスクの説明を読むと、つい禁止事項を増やしたくなります。禁止ばかりのルールは守られず、社員が黙って個人のアカウントで使う原因になります。使ってよい方法も必ず書きます
- 法令とガイドラインを分けて考える:個人情報の扱いや著作権など、法令で決まっていることはガイドラインとは別に守る必要があります。法令に関わる部分は、公式サイトで最新の情報を確認し、迷えば専門家に相談します
- 版が変わることを前提にする:国のガイドラインは改訂されることがあります。参考にした版と日付を控えておき、見直しのときに新しい版が出ていないか確かめます
- 取引先から求められる場合に備える:取引先から「AIの利用ルールはあるか」と聞かれることがあります。社内ルールが外のガイドラインのどの考え方を踏まえているかを説明できるようにしておくと安心です
ポイント
外のガイドラインは「正解」を教えてくれるものではなく、「考えるべき観点」を教えてくれるものです。自社の業務に当てはめて判断するのは、現場を知っている管理職の役割です。
ルールを決めたあとは、仕組みの側でも守れるようにする
社内ルールを決めても、社員一人ひとりの注意に頼るだけでは限界があります。ルールで決めたことのうち、仕組みで守れるものは仕組みに任せると、現場の負担が減り、守られやすくなります。
| ルールで決めたこと | 仕組みで守る方法の例 |
|---|---|
| 会社が認めたサービスだけを使う | 業務で使うAIを会社のアカウントにまとめ、管理画面で利用状況を確かめる |
| 入力してはいけない情報を入れない | 業務ごとに決まった入力欄を用意し、必要な情報だけをAIに渡す形にする |
| 社外に出す前に人が確かめる | AIが作った下書きは、担当者が承認するまで送信されない流れにする |
| 何にAIを使ったかを説明できる | AIが処理した記録(いつ・何を・誰が確かめたか)を残す |
作った社内ルールを守られる状態に保つための周知・点検・見直しの回し方は「生成AIの社内ルールを形骸化させないには?」の記事で説明しています。
当社のAI社員は、業務ごとにAIが扱ってよい情報と人が確かめる場面を最初に決め、その決まりを仕組みとして組み込んだうえで動かしています。料金は初期費用+月5万円で、初期費用はヒアリング後にお見積もりします。保守・相談・メンテナンスは回数の制限なく含まれているため、ルールの見直しに合わせて仕組みを直すことも、運用の中でご相談いただけます。「国のガイドラインを読んだが、自社で何を決めればよいかわからない」という段階からでも、業務の書き出しから一緒に進められます。
よくある質問
生成AIのガイドラインとは何ですか?
生成AIを安全に、責任を持って使うための考え方や注意点をまとめた指針です。国や業界団体などが出す「外のガイドライン」と、会社が社員向けに決める「社内の利用規程」の2種類があります。
国の生成AIのガイドラインには、どんなものがありますか?
代表的なものに、総務省と経済産業省が2024年に公表した「AI事業者ガイドライン」があり、AIを業務で使う会社も対象に含まれています。改訂されることがあるため、最新版は公式サイトで確認してください。
国の生成AIのガイドラインを守らないと罰則はありますか?
ガイドラインの多くは法律のような罰則を伴うものではありません。ただし、個人情報や著作権など関係する法令は別に守る必要があるため、法令にかかわる部分は公式サイトで最新の情報を確認し、迷う場合は専門家に相談してください。
中小企業は、生成AIのガイドラインをそのまま社内ルールにしてよいですか?
そのままでは抽象的で、社員が判断に使いにくいためおすすめしません。「AI利用者」向けの部分から、入力する情報・使うサービス・結果の確認・説明・相談先の5つを拾い、自社の業務の具体例に書き直して社内ルールにします。