安全性・社内ルール公開日

生成AIの社内ルールを形骸化させないには?——作った後の周知・点検・見直しの回し方と、守られるルールにする手順

結論

生成AIの社内ルールを形骸化させないためには、ルールを作った後に「使う場面で思い出せる周知」「守られているかの定期的な点検」「AIの変化と現場の声に合わせた見直し」の3つを、担当と時期を決めて回し続けることが必要です。ルールが守られなくなる原因の多くは、内容の不備よりも、作って配ったまま誰も見直さないことにあります。管理職が自分の部署で月1回5分でも確認する仕組みを入れると、ルールは「文書」から「習慣」に変わります。

株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、作った生成AIの社内ルール(利用規定)を形骸化させず、守られるようにするための周知・点検・見直しの回し方について解説します。生成AIの利用ルールを作って全社に配った。最初は話題になったものの、数か月たつと誰も見返さなくなり、新しく入った社員はルールの存在すら知らない。禁止したはずの使い方を、気づけば現場の誰かがしている。管理職の方から、こうしたご相談をいただくことが増えています。ルールの作り方(入れるべき項目)は別の記事にまとめていますので、この記事では「作った後」に焦点を当てます。ルールが形骸化する原因、守られるルールにするための周知・点検・見直しの具体的な回し方、管理職が担う役割を順に説明します。

生成AIのルールが形骸化する5つの原因

生成AIの社内ルールが守られなくなるのには、いくつかの決まった原因があります。自社に当てはまるものがないか、確かめてみてください。

原因起きていること対策の方向
思い出せないルールは共有フォルダにあるが、AIを使う場面で見ない使う場面の近くにルールを置く
現実に合わない禁止が多すぎて仕事にならず、黙って使われる使ってよい方法を示す
古くなる新しいAIの機能やサービスに触れていない定期的に見直す
誰も確かめない守られているかを確認する担当がいない点検の担当と時期を決める
新人に伝わらない作ったときにいた社員しか知らない入社時の説明に組み込む

この中で特に多いのが「現実に合わない」です。情報漏えいを心配するあまり、ほとんどの使い方を禁止すると、社員は便利さに負けて個人のアカウントでこっそり使うようになります。会社が把握できない使い方(シャドーAI)が広がると、ルールを作る前よりかえって危ない状態になりかねません。形骸化を防ぐ第一歩は、「これなら守れる」と現場が思えるルールにしておくことです。

周知:配って終わりにせず、使う場面で思い出せるようにする

ルールを守ってもらうには、全文を覚えてもらうより、AIを使うその場面で大事な点を思い出せるようにするほうが効果があります。

  1. 要点を1枚にまとめる:全文とは別に「入れてはいけない情報」「使ってよいサービス」「結果を使う前に確かめること」「困ったときの相談先」だけを書いた1枚を作る
  2. 使う場所の近くに置く:社内で使うAIの画面の入口、社内チャットの固定メッセージ、共有フォルダの先頭など、AIを使う前に必ず目に入る場所に要点を置く
  3. 具体例で示す:「お客様の名前と住所が入った問い合わせ文をそのまま貼らない。名前は〇〇さんに置き換える」のように、自社の業務に即した例を添える
  4. 入社時の説明に組み込む:新しく入った社員やパート・アルバイトの最初の説明の中に、要点の説明を入れる
  5. 変えたときは理由と一緒に伝える:ルールを変えたら、何がなぜ変わったのかを短く伝える

ポイント

「禁止事項」だけを並べるより、「この業務ではこのサービスをこう使ってよい」という使い方の例を示すほうが、ルールは守られやすくなります。社員が迷わずに済むことが、いちばんの安全対策です。

点検:守られているかを、管理職が短い時間で確かめる

ルールが守られているかを確かめる担当と時期が決まっていないと、問題は事故が起きるまで見つかりません。とはいえ、中小企業では専任の担当を置く余裕はないことがほとんどです。そこで、各部署の管理職が月に1回、短い時間で確かめる形をおすすめしています。

管理職が月1回確かめること

  • 部署で使われているAIのサービスは、会社が認めたものだけか
  • 新しく使い始めたサービスや機能はないか(あれば申請してもらう)
  • AIで作った文章や資料を、確かめずにお客様に出したことはないか
  • 入力してよいか迷った情報はなかったか、どう判断したか
  • ルールのせいで仕事がしにくくなっている点はないか

点検は、社員を取り締まるためではなく、困りごとや迷いを拾うために行います。「迷った」「ルールが合わない」という声が出てくること自体が、ルールが生きている証拠です。責める雰囲気になると、社員は報告しなくなり、かえって実態が見えなくなります。

利用しているAIのサービスに管理画面がある場合は、誰がどれくらい使っているかを確かめられることがあります。まったく使われていない部署があれば、使い方がわからないのか、別のサービスを使っているのかを聞いてみると、ルールの改善点が見つかります。

見直し:半年に1回と、大きな変化があったときに

生成AIは、新しいサービスや機能が次々に出てくる分野です。1年前に作ったルールが、今の使い方に合っていないことは珍しくありません。見直しの時期をあらかじめ決めておきます。

見直すとき見直す内容
半年に1回(定期)使ってよいサービスの一覧、点検で出た迷い・困りごと、禁止事項が現実に合っているか
新しいサービスを使い始めるときデータの扱い(学習に使われるか、保存場所)を確かめ、一覧に加えるか判断する
業務でAIを使う範囲を広げたとき新しい業務で扱う情報(顧客情報・取引先情報など)の入力の可否
トラブルや「ひやり」があったとき何が原因だったかを確かめ、同じことが起きないよう具体例を足す
法令やガイドラインが変わったとき個人情報や著作権などの扱いに影響がないか確かめる

見直しの会議は長くする必要はありません。点検で集まった声を一覧にし、「残す・変える・やめる」を決めるだけで十分です。法令や制度に関わる部分は、判断に迷ったら専門家に相談し、最新の情報は公式の案内で確かめてください。

守られるルールにするための手順と、管理職の役割

すでにルールがあるがあまり守られていない会社は、次の手順で立て直すことができます。

  1. 今の使われ方を聞く:各部署で、誰がどのAIを何に使っているかを、責めずに聞き取る
  2. ルールとの差を確かめる:実際の使い方とルールが合っていない点を洗い出す
  3. 使ってよい方法を足す:黙って使われている便利な使い方のうち、安全に使えるものは、条件付きで認める
  4. 要点の1枚を作り直し、使う場所に置く:周知の方法を変える
  5. 点検と見直しの予定を決める:管理職の月1回の確認と、半年ごとの見直しを予定に入れる

この中で管理職が担う役割は大きく3つです。1つ目は、自分の部署の使い方を把握すること。2つ目は、迷いや困りごとを気軽に言える雰囲気をつくること。3つ目は、拾った声を見直しの場に持ち寄ることです。ルールを作るのは一度ですが、守られる状態を保つのは管理職の日々の関わりです。

当社がAI社員を導入する際も、AIが扱ってよい情報と人が確認する部分を最初に決め、運用しながら一緒に見直しています。月5万円の中に保守・相談が回数の制限なく含まれているのは、こうした「作った後の見直し」を続けることが、AIを安全に使い続けるうえで欠かせないと考えているからです。

ルールの中身の工夫:3つの区分と「迷ったときの順番」を書いておく

周知・点検・見直しを回すのに加えて、ルールの書き方そのものを工夫すると、形骸化しにくくなります。効果が大きいのは、使い方を3つの区分に分けることと、迷ったときにどう判断すればよいかの順番を書いておくことです。

区分例社員がすること
自由に使ってよい社外に出ない文章の言い回しの相談、一般的な調べもの、アイデア出し会社が認めたサービスで、そのまま使ってよい
条件付きで使ってよいお客様に出す文章の下書き、社内資料の要約、会議の記録の整理名前などを置き換える、出す前に人が確かめる、などの条件を守る
使ってはいけない個人情報や取引先の秘密をそのまま入力する、AIの結果を確かめずに契約や請求に使う使わない。必要なら相談する

すべてを細かく書き出そうとすると、ルールは長くなり、読まれなくなります。代表的な例を3つの区分に分けて示し、それ以外は次の順番で判断してもらう形にすると、短いルールでも現場が迷いにくくなります。

  1. 入力する情報に、個人情報や取引先の秘密が含まれていないか:含まれていれば、置き換えるか使わない
  2. 使うのは会社が認めたサービスか:違えば、使う前に申請する
  3. 結果を社外に出すか、お金や契約に関わるか:関わるなら、必ず人が確かめてから使う
  4. それでも迷ったら相談する:相談先(担当者の名前やチャットの場所)をはっきり書いておく

相談先がはっきりしていることは、ルールを生かし続けるうえでとても大切です。相談が集まる担当者は、現場でどんな迷いが起きているかを最もよく知る人になり、見直しの場でその声を生かせます。相談が来ないのは、迷いがないからではなく、聞きにくいからかもしれません。「迷ったら聞いてくれてありがとう」と受け止める姿勢が、ルールを守る文化をつくります。

よくある質問

社内で形骸化しない生成AIの利用ルールを作る具体的な手順は?

今の使われ方を聞き取ってルールとの差を確かめ、使ってよい方法を足したうえで、要点を1枚にまとめてAIを使う場所の近くに置きます。そのうえで管理職の月1回の点検と、半年ごとの見直しを予定に入れて回し続けます。

生成AIのルールは、どれくらいの頻度で見直せばよいですか?

半年に1回の定期的な見直しに加えて、新しいサービスを使い始めるとき、AIを使う業務を広げたとき、トラブルがあったときにも見直すのがおすすめです。

AIの利用を全面禁止にすれば安全ではないですか?

全面禁止にすると、社員が個人のアカウントで黙って使うようになり、会社が把握できない使い方が広がるおそれがあります。使ってよいサービスと方法を示すほうが、結果として安全に管理しやすくなります。

ルールが守られているかは、誰が確認すればよいですか?

中小企業では、各部署の管理職が月に1回、使っているサービスや迷った点を短く確かめる形が現実的です。集まった声は、半年ごとの見直しの場に持ち寄ります。

執筆・監修

吉村 聡一郎の写真

株式会社MEDISITE 執行役員/AI事業責任者

吉村 聡一郎

株式会社アシロ(東証グロース市場)で営業統括責任者・新規事業開発責任者を経験。2022年、株式会社MEDISITEの創業メンバーとして参画し、AI事業・営業支援事業を統括。

  • AI導入・AI研修
  • 営業・新規事業

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