ホテル・旅館でAIは何に使えるか——人手不足の中で、予約前の問い合わせ・多言語対応、口コミ返信、シフトと清掃の段取りを任せる方法
結論
ホテル・旅館でAIが使えるのは、予約前の問い合わせへの返信と多言語対応、口コミへの返信の下書き、シフトや清掃の段取りづくり、館内案内やよくある質問への回答の4つです。どれも人手不足で後回しになりがちな裏方の仕事で、AIに下書きや段取りを任せ、人が確認して決める形にすると、限られた人数でもお客様と向き合う時間を確保できます。お客様ごとの特別な配慮や、トラブル時の対応はスタッフが判断する前提で設計するのが大切です。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、ホテル・旅館でのAIの活用方法と始め方について解説します。ホテルや旅館の経営者の方からは、「人が足りず、フロントが電話とメールに追われている」「外国のお客様が増えたが、英語や中国語で返信できる人がいない」「口コミへの返信まで手が回らない」という悩みをよく伺います。人を採ろうとしても集まりにくく、今いるスタッフの負担が増えていくのが現状ではないでしょうか。この記事では、ホテル・旅館でAIを使える仕事を4つに分けて、それぞれの使い方と、人が判断すべきところ、始める順番を説明します。
ホテル・旅館の人手不足は、AIで「裏方の作業」を減らして補う
ホテル・旅館の仕事は、お客様と直接向き合う「おもてなし」と、それを支える「裏方の作業」に分けられます。人手が足りないとき、真っ先に削られてしまうのはおもてなしの時間です。フロントのスタッフが電話やメールの返信に追われていると、到着したお客様にゆっくり声をかける余裕がなくなります。
AIが得意なのは、この裏方の作業です。問い合わせへの返信、外国語への翻訳、口コミへの返信の文章づくり、シフト表の下書きなど、文章を読み書きしたり、決まった条件で組み合わせを考えたりする仕事は、AIに下書きを任せられます。
| 仕事 | AIに任せること | スタッフが判断すること |
|---|---|---|
| 予約前の問い合わせ・多言語対応 | 質問への返信案、外国語での返信、よくある質問への自動回答 | 料金や空室の約束、特別な要望への対応可否 |
| 口コミへの返信 | 口コミの内容に合わせた返信の下書き | 不満への謝罪の内容、改善の約束 |
| シフト・清掃の段取り | 希望休と予約数をもとにしたシフト案、清掃の順番の案 | 最終的なシフトの確定、当日の調整 |
| 館内案内・滞在中の質問 | 入浴時間、食事の時間、周辺の観光案内などへの回答 | 体調不良やトラブルへの対応 |
AIに任せる部分と、スタッフが判断する部分を分けておくことで、サービスの質を落とさずに作業の量を減らせます。
人を採る前に、今の仕事の中身を見直す
人手不足の対策というと、まず採用を考える経営者の方が多いと思います。もちろん採用は大切ですが、募集してもなかなか応募が集まらず、決まるまでの間に今のスタッフが疲れてしまうことも少なくありません。そこで、採用と並行して「今のスタッフがどの仕事に時間を使っているか」を書き出してみることをおすすめします。電話とメールの返信、予約サイトの管理、口コミへの返信、シフトづくりなど、おもてなし以外の仕事が思った以上に多いことに気づくはずです。その中から、AIに下書きを任せられる仕事を選んでいくと、採用が決まるまでのつなぎにもなり、採用したあとも新しいスタッフが本来の仕事に集中しやすくなります。
予約前の問い合わせは、AIが返信案をつくり、外国語にも対応する
予約前の問い合わせには、「駐車場はありますか」「子ども用の布団は借りられますか」「アレルギーに対応できますか」「駅から送迎はありますか」など、決まった答えがあるものが多く含まれます。電話やメールで一件ずつ答えていると、それだけでフロントの時間がとられてしまいます。
AIを使うと、次のように対応できます。
- 宿の情報をまとめてAIに読み込ませる:設備、料金の考え方、送迎、食事、館内のルール、周辺の案内などを資料にする
- 問い合わせの返信案をつくる:メールや予約サイトのメッセージに対し、宿の情報にもとづいた返信案をつくる
- 答えられない質問は人に回す:資料にない質問や、特別な対応が必要な質問は、担当者に知らせる
- 担当者が確認して送る:慣れてきたら、よくある質問への回答だけ自動で返す範囲を広げる
外国のお客様への返信も、同じ仕組みで対応できる
AIは、日本語で用意した宿の情報をもとに、英語・中国語・韓国語などで返信案をつくれます。外国語が得意なスタッフがいなくても、お客様の言葉で返信できるようになります。届いた外国語の問い合わせを日本語に訳してスタッフに見せる使い方もできます。
ポイント
料金・空室・キャンセルの条件など、お客様との約束になる内容は、AIの回答に任せきらずに人が確かめます。とくに外国語の返信は、スタッフが内容を読めないまま送ることにならないよう、日本語訳を並べて確認できる形にしておくと安心です。
問い合わせの返信が早くなると、迷っているお客様がほかの宿に予約してしまう前に答えられるため、予約の取りこぼしを減らすことにもつながります。
口コミへの返信は、AIが内容に合わせた下書きをつくる
予約サイトや地図サービスの口コミは、次のお客様が宿を選ぶときの大切な判断材料です。口コミに丁寧に返信している宿は、それだけでよい印象を持たれやすくなります。しかし、口コミが増えると、一件ずつ内容を読んで返信を書く時間がとれず、返信が止まってしまうこともあります。
AIには、口コミの内容を読み取って、次のような返信の下書きをつくらせられます。
- ほめられた点(料理、お風呂、スタッフの対応など)に具体的にお礼を言う返信
- 不満が書かれている場合に、事実を確かめたうえで謝罪と改善を伝える返信の案
- 外国語で書かれた口コミに、同じ言語で返す返信
- 宿の雰囲気に合わせた言葉づかい(格式のある旅館、気軽なビジネスホテルなど)
不満への返信は、とくに人が確認してから出す
不満が書かれた口コミへの返信は、宿の姿勢が問われる場面です。AIの下書きは、事実と違うことを書いたり、必要以上に謝ったり、反対に言い訳がましくなったりすることがあります。不満への返信は、担当者や支配人が事実を確かめ、内容を直してから公開してください。
また、口コミを毎月まとめて「どんな点がほめられ、どんな点に不満が多いか」を集計すると、改善のヒントになります。AIは自由に書かれた文章の分類が得意なので、集計の作業も任せられます。
返信の「型」を決めておくと、下書きの質がそろう
AIに口コミの返信を書かせる前に、宿としての返信の型を決めておくと、下書きの質がそろいます。たとえば「お礼の言葉→具体的にほめられた点への感謝→次回のご来館へのお誘い」という順番や、使ってよい言葉づかい、署名の書き方などです。過去にスタッフが書いた返信のうち、よいと思うものを数件選んでお手本として読み込ませると、宿らしい文章に近づけられます。担当者が替わっても返信の雰囲気が変わらないのも、型を決めておく利点です。
シフトと清掃の段取りは、AIが条件に合わせた案をつくる
ホテル・旅館のシフトづくりは、予約の多い日と少ない日、スタッフの希望休、フロント・調理・清掃などの担当、夜勤の回数など、考えることが多く、支配人や管理者の大きな負担になっています。清掃も、チェックアウトの時間と次のお客様のチェックインの時間に合わせて、どの部屋から片づけるか段取りを考える必要があります。
AIには、次のような条件を伝えて案をつくらせられます。
シフト案をつくるときにAIに伝える条件の例
- 日ごとの予約数・宴会や団体の予定
- スタッフごとの希望休、勤務できる時間帯、担当できる仕事
- 夜勤の回数や連続勤務の上限など、守るべきルール
- 新人とベテランを組み合わせるなどの配慮
当社の導入事例では、介護(職員50名規模)の事務担当の方の毎月のシフト作成が、2日から半日になりました。業種は違いますが、希望と条件を組み合わせて案をつくるという作業は、ホテル・旅館のシフトづくりとよく似ています。
清掃の段取りについても、チェックアウトの予定とチェックインの予定をもとに、清掃する部屋の順番と担当の割り振りの案をつくれます。案はあくまで下書きなので、当日の急な変更や、スタッフの体調などを踏まえて、責任者が最終的に決めます。
館内案内や滞在中の質問は、よくある質問からAIに答えさせる
滞在中のお客様からは、「大浴場は何時までですか」「朝食の会場はどこですか」「近くにコンビニはありますか」「タクシーを呼べますか」といった質問が繰り返し寄せられます。フロントへの電話や声かけが重なると、ほかの仕事が止まってしまいます。
客室に置いた案内や、お客様のスマートフォンから見られる案内ページで、AIが質問に答える仕組みをつくれます。
- よくある質問と館内の情報を集める:入浴・食事・チェックアウトの時間、設備、周辺の店や観光地の情報などをまとめる
- AIに答えさせる範囲を決める:館内の案内や周辺の情報は答え、体調やトラブルに関わることはフロントにつなぐ
- 多言語で答えられるようにする:外国のお客様にも、お客様の言葉で答える
- 答えられなかった質問を見直す:記録を見て、よく聞かれるのに答えられなかった質問を資料に追加する
お客様がいつでも自分で調べられるようになれば、フロントへの問い合わせが減り、スタッフはチェックインや困っているお客様への対応に集中できます。
「答えない質問」を決めておくことも大切
館内案内のAIには、答えてよい範囲だけでなく、答えてはいけない範囲も決めておきます。たとえば、体調不良や薬についての相談、ほかのお客様に関する質問、料金の値引きの交渉などは、AIが答えずにフロントへつなぐようにします。周辺の飲食店の営業時間のように変わりやすい情報は、「最新の情報はお店にご確認ください」と添えるようにしておくと、間違った案内でお客様を困らせることを防げます。
ホテル・旅館でAIを始める順番と、気をつけること
ホテル・旅館でAIを取り入れるときは、いきなりすべてを変えるのではなく、次の順番で進めると現場の負担が少なくなります。
- いちばん時間をとられている仕事を選ぶ:問い合わせ、口コミ返信、シフトづくりのうち、スタッフの時間を一番使っているものから始める
- 宿の情報を一つの資料にまとめる:設備・料金の考え方・ルール・よくある質問などを整理する。これはどの使い方にも役立つ土台になる
- 人が確認する形で始める:最初はAIの返信案や案をすべて人が確認し、慣れてきたら任せる範囲を広げる
ホテル・旅館でAIを使うときの注意点
- お客様の氏名・連絡先・アレルギーなどの情報を、どのAIサービスで扱うか決めておく
- 入力した情報がAIの学習に使われない設定や契約になっているか確認する
- 料金・空室・キャンセル条件の回答は、人が確かめる
- 体調不良・事故・苦情などは、AIではなくスタッフが対応する
- 予約サイトの規約で、メッセージや口コミ返信に決まりがないか確かめる
AIは、おもてなしの代わりではなく、おもてなしの時間をつくるための道具です。当社の「月5万円のAI社員」では、宿ごとの業務に合わせたAIの仕組みをつくり、導入後の調整や相談も月額の中でお受けしています。費用は初期費用+月5万円で、初期費用はヒアリング後にお見積もりします。人手不足で手が回らない仕事があれば、どこから任せられるか一緒に整理しますので、お気軽にご相談ください。
よくある質問
旅館やホテルの問い合わせ対応はAIに任せられますか?
設備や送迎、食事など決まった答えがある問い合わせは、宿の情報をもとにAIが返信案をつくれます。料金や空室など約束になる内容と、特別な要望への対応は、スタッフが確認してから返す形にします。
外国語を話せるスタッフがいなくても、外国のお客様に対応できますか?
AIを使えば、日本語で用意した宿の情報をもとに、英語や中国語などで返信案をつくれます。日本語訳を並べて確認できる形にしておくと、内容を理解したうえで送れます。
口コミへの返信をAIで書いても大丈夫ですか?
下書きをAIにつくらせるのは問題ありませんが、不満が書かれた口コミへの返信は、事実を確かめたうえで担当者が直してから公開してください。宿の姿勢が伝わる場面なので、人の確認が欠かせません。
小さな旅館でもAIを導入する意味はありますか?
あります。少人数の宿ほど、経営者や女将が問い合わせや口コミ返信、シフトづくりを抱えていることが多く、その一部をAIに任せるだけでも、お客様と向き合う時間を増やせます。