食品メーカー・飲食業でAIは何に使えるか——受発注の入力・問い合わせ対応・商品書類の作成補助
結論
食品メーカー・飲食業でAIが特に役立つのは、FAXやメールで届く受発注の入力、取引先や店舗からのよくある問い合わせへの回答案づくり、商品規格書などの書類の下書きの3つです。ただし、食品表示に関わる書類はAIに下書きまでを任せ、法令に照らした最終確認は必ず担当者が行う形にします。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、食品メーカー・飲食業でのAIの活用方法と注意点について解説します。食品メーカーや飲食業では、受注や発注の件数が多く、取引先ごとに書式も違うため、事務の手間が大きくなりがちです。さらに、アレルゲンや原材料についての問い合わせ、商品の規格書づくりなど、間違えられない仕事も多くあります。この記事では、食品の仕事のどこにAIを使えば負担が減るのか、そしてAIに任せてはいけない部分はどこかを、当社がご相談を受けてきた経験をもとに説明します。
食品メーカー・飲食業の事務が忙しくなる3つの理由
食品を扱う会社の事務が忙しくなりやすいのには、業界ならではの理由があります。
- 受発注の件数が多く、締め切りが短い:日配品や生鮮品は毎日のように注文があり、当日の決まった時間までに入力を終えないと製造や配送に間に合いません
- 取引先ごとに書式がバラバラ:卸・小売・飲食店など、取引先によってFAX・メール・Web発注と受け方も書式も違い、手で入力し直す作業が残ります
- 間違えられない情報が多い:原材料、アレルゲン、賞味期限、保存方法など、誤りがお客様の健康に関わる情報を扱います
このうち、AIが得意なのは「書式がバラバラなものを読み取って整える」「よくある質問に、社内の資料をもとに答えを作る」「決まった型の書類の下書きを作る」といった作業です。一方で、健康や安全に関わる最終判断は、人が責任を持って行う必要があります。この線引きを最初に決めておくことが、食品業でAIを使うときの一番のポイントです。
AIが役立つ業務と、人が担う部分の分け方
食品メーカー・飲食業でAIを使いやすい業務を、AIと人の役割に分けて整理すると次のようになります。
| 業務 | AIに任せる部分 | 人が担う部分 |
|---|---|---|
| 受注の入力 | FAX・PDF・メールの注文書を読み取り、受注データに入力する | 読み取りに自信がない項目や、いつもと違う注文の確認 |
| 発注の作成 | 過去の発注や在庫の記録をもとに、発注数の案を作る | 天候・行事・仕入れ状況を見て数量を決める |
| 取引先・店舗からの問い合わせ | 商品情報や社内資料をもとに回答案を作る | 内容を確認して送る。クレームや健康に関わる相談は最初から人が対応 |
| 商品規格書などの書類 | 原材料の配合表や既存の書類から下書きを作る | 法令や社内基準に照らして確認し、確定する |
| 社内の手順の確認 | マニュアルをもとに、従業員の質問に答える | マニュアルの内容を最新に保つ |
どの業務も、AIは「準備と下書き」、人は「確認と判断」という分け方が基本です。AIに全部を任せるのではなく、人が一から作業していた部分をAIに置き換え、人は確認に集中するという考え方で進めると、効果と安全性を両立しやすくなります。
受発注の入力:FAXやメールの注文書をAIで読み取る
食品の受注は、今もFAXで届くことが多い分野です。手書きの注文書や、取引先ごとに違う形式の表を、担当者が見ながら販売管理のシステムやシートに打ち込んでいる会社も少なくありません。
AIを使った受注入力は、次のような流れになります。
- FAXやメールで届いた注文書を、AIが自動で取り込む
- 取引先名・商品名・数量・納品日・納品先を読み取る
- 取引先ごとの呼び方(略称や独自の品番)を、自社の商品コードに置き換える
- 受注データとしてシートやシステムに入力する
- 読み取りに自信がない項目や、いつもと大きく違う数量を担当者に知らせる
当社が支援した製造業(従業員30名規模)の事例では、事務担当の受注書の入力が1日2時間から15分になりました。食品メーカーでも、取引先ごとに書式が違う、締め切りまでに入力を終えたい、という課題は共通しており、同じ考え方で仕組みをつくれます。
ポイント
「いつもと違う数量」を知らせる仕組みを入れておくと、桁の書き間違いや重複した注文に気づきやすくなります。食品は作りすぎも足りなさも損失につながるため、この確認の工程が役立ちます。
発注側でも、過去の発注や販売の記録をもとに、AIに発注数の案を作らせることができます。ただし、天候や地域の行事、仕入れ先の事情など、記録に表れない要素も多いため、最終的な数量は担当者が決める形にします。
取引先・店舗からの問い合わせ対応をAIで速くする
食品メーカーには、取引先から「この商品の原材料は」「アレルゲンは何が含まれるか」「賞味期限はどのくらいか」「次の納品はいつか」といった問い合わせが日々届きます。飲食店でも、複数の店舗から本部へ、手順や在庫についての質問が集まります。
こうした問い合わせは、答えが社内の資料のどこかにあることがほとんどです。AIに商品の情報や社内の資料を参照させて、回答案を作らせると、担当者は資料を探す時間を減らせます。
回答案は人が確認してから送る
原材料やアレルゲンについての回答は、誤りがあるとお客様の健康に関わります。AIが作った回答案は、必ず担当者が元の資料と照らし合わせてから送る運用にしてください。特に、商品のリニューアルで配合が変わった場合など、古い情報のまま回答案が作られることがないよう、AIが参照する資料を常に最新にしておくことが大切です。
健康被害や異物混入の連絡は最初から人が対応する
体調不良の申し出、異物の混入、表示の誤りの指摘などは、AIが回答案を作らずに、すぐ責任者に知らせるルールにしておきます。こうした連絡は、社内の決まった手順に沿って人が対応すべきものです。
店舗からの質問には社内マニュアルをもとに答える
飲食業では、仕込みの手順、衛生管理のルール、機器の扱い方などを、店舗のスタッフが本部に聞く場面がよくあります。マニュアルをAIに参照させて答えさせると、本部の担当者が同じ質問に何度も答える手間を減らせます。新しく入ったアルバイトやパートのスタッフでも、わからないことをすぐに確認できるため、教える側の負担も軽くなります。ただし、衛生管理など安全に関わる手順は、マニュアルの内容が正しく最新であることが前提です。AIの回答に迷いがある場合は、店長や本部に確認するルールも合わせて伝えておきましょう。
食品表示・規格書づくりはAIが下書き、人が法令に照らして確認
商品規格書や、取引先に提出する商品カルテ、ラベルに載せる表示案などは、原材料の配合表や既存の書類から作るため、AIで下書きを作ると手間を減らせます。たとえば、次のような作業です。
- 配合表から、原材料を重量の多い順に並べた一覧の案を作る
- 原材料の情報から、含まれる可能性のあるアレルゲンを洗い出して担当者に示す
- 取引先ごとに違う規格書の書式に、同じ情報を転記する
- 過去の規格書との違いを比べて、変更点を一覧にする
一方で、食品表示には食品表示法をはじめとするルールがあり、内容も改正されることがあります。AIは表示のルールを誤って理解したり、古い情報をもとに下書きを作ったりする可能性があります。そのため、表示に関わる書類は、AIの下書きをそのまま使わず、必ず担当者が最新のルールに照らして確認してから確定してください。
表示に関わる書類で人が確認すること
- 原材料や添加物の書き方が、最新の表示ルールに合っているか
- アレルゲンの表示に漏れや誤りがないか(原材料の原材料まで確認したか)
- 配合の変更や仕入れ先の変更が反映されているか
- 取引先から求められている書式・項目を満たしているか
- 確定した内容を、AIが参照する資料にも反映したか
食品表示の制度については、消費者庁のWebサイトで基準や解説が公開されています。表示の判断に迷う場合や、制度の改正があった場合は、消費者庁の最新の情報を確認し、必要に応じて保健所などの窓口や専門家に相談してください。
食品業でAIを導入するときの進め方
食品メーカー・飲食業でAIを導入するときは、次の順番で進めると失敗しにくくなります。
- 最初の1業務を決める:受注の入力など、毎日発生していて、手順がある程度決まっている業務から選びます
- 実際の書類を集める:取引先ごとの注文書や、過去の問い合わせと回答など、実物を用意します
- AIと人の役割を決める:どこまでAIに任せ、どこで人が確認するかを、表示や健康に関わる部分を中心に決めます
- 小さく試す:一部の取引先や一部の店舗から始め、読み取りや回答案の精度を確認します
- 広げる:問題がなければ対象を広げ、次の業務の自動化を検討します
当社には、食品を含むさまざまな業種の企業、約90社からご相談をいただいてきました。当社のAI社員は、業務の整理から仕組みづくり、導入後の調整までをまとめてお引き受けしており、料金は初期費用+月5万円です。社内にAIを作れる人がいなくても、「この作業を減らしたい」という相談から始められます。
よくある質問
手書きのFAX注文書でもAIで読み取れますか?
多くの場合は読み取れます。ただし、字のくせや書き込みの状態によって読み取りを誤ることがあるため、自信がない項目を担当者に知らせる仕組みと組み合わせて使います。
食品表示をAIに任せても大丈夫ですか?
AIに任せてよいのは下書きまでです。表示のルールは改正されることもあるため、最終的な内容は担当者が消費者庁などの最新情報に照らして確認し、確定してください。
アレルゲンについての問い合わせにAIが自動で回答してしまうことはありますか?
回答の送信を担当者の確認後にする設計であれば、AIが自動で送ることはありません。健康に関わる内容なので、必ず人が元の資料と照らし合わせてから送る運用をおすすめします。
小さな飲食店でもAIを導入する意味はありますか?
店舗数が少なくても、予約や問い合わせの対応、発注、マニュアルへの質問対応など、毎日くり返す作業があれば効果が出る可能性があります。まずは一番時間を取られている作業を1つ選んで検討するのがおすすめです。