設計事務所でAIは何に使えるか——打ち合わせ記録と要望の整理、法規の下調べ、提案資料・説明文、図面からの数量拾いの補助
結論
設計事務所でAIが役立つのは、打ち合わせ録音からの要望一覧と宿題の整理、施主への説明文や提案資料の下書き、法規・条例の下調べの補助、図面からの数量・部材の拾い出しの補助、変更履歴の管理といった、設計そのものの周りにある事務と下準備の仕事です。構造・安全・法への適合の最終判断は建築士が行い、AIは下書きと整理を担う分担にすると、少人数の事務所でも設計に使える時間を増やせます。最初は、毎回発生して手順が決まっている打ち合わせ記録の整理から始めるのがおすすめです。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、設計事務所・建築設計の会社でのAIの活用方法(打ち合わせ記録と要望の整理、施主への説明文・提案資料、法規の下調べ、数量拾いの補助、変更履歴の管理)と注意点について解説します。施主との打ち合わせのあと、記録をまとめて要望を整理するだけで夜になる。確認申請の書類準備や、施主への説明資料づくりに追われ、本来の設計に向き合う時間が削られていく。少人数の設計事務所の所長の方から、こうしたお悩みを伺うことがあります。この記事では、設計事務所・建築設計の会社でAIを使える仕事と、それぞれの使い方、AIに任せてはいけない判断、図面データと施主の情報の扱い、始める順番を、AI社員を提供している当社の立場から説明します。
少人数の設計事務所では、設計以外の事務と施主とのやりとりが時間を奪っている
設計事務所の仕事の中心は、施主の要望を聞き取り、法規や構造、予算の条件の中で、形にしていく設計の仕事です。ただ、所員が数名の事務所では、その周りにある仕事も所長や担当者が抱えています。打ち合わせの記録、要望の整理、施主へのメールや説明資料、法規や条例の下調べ、確認申請の書類の準備、図面の変更の記録などです。
当社の別の記事では、建設・設備業や工務店・リフォーム会社でのAIの使い方を紹介しています。この記事では、施工ではなく設計を仕事にしている事務所ならではの仕事に絞って説明します。
AI(文章を読んだり書いたりできるコンピューターの仕組み)が力を発揮するのは、設計そのものではなく、文章を読み書きし、情報を整理する部分です。使いどころを一覧にすると、次のとおりです。
| 業務 | AIがやること | 人が確かめること |
|---|---|---|
| 打ち合わせ記録 | 録音の文字起こしから、要望一覧・決定事項・宿題を整理する | 聞き違いや抜けがないか、施主との認識のずれ |
| 施主への説明文・提案資料 | 設計の考え方や案の比較を、専門用語を避けた言葉で下書きする | 内容が設計の意図と合っているか、約束になる表現がないか |
| 法規・条例の下調べ | 調べるべき項目の洗い出し、条文の要点の整理 | 原文と行政窓口での確認、適合の判断(建築士) |
| 数量・部材の拾い出し | 図面や仕様書から数量の下書きと一覧を作る | 読み取りの誤り、拾い漏れ |
| 変更履歴の管理 | 打ち合わせごとの変更点と理由を一覧にする | 図面への反映漏れ、施主の承認 |
| 確認申請などの書類準備 | 必要書類の一覧、記載内容の転記の下書き | 記載内容の正しさ、提出の判断 |
どの仕事でも、AIは「下書き」と「整理」まで、施主に届ける前の確認と、設計としての判断は建築士、という分担が基本です。
打ち合わせの録音から、要望一覧と宿題をAIが整理する
住宅や店舗の設計では、施主との打ち合わせが何度も続きます。そのたびに、要望、決まったこと、まだ決まっていないこと、次回までにお互いが用意すること(宿題)が出てきます。これを記録にまとめるのは大切ですが、時間のかかる仕事です。記録があいまいだと、あとで「そんな話はしていない」という食い違いにもつながります。
AIを使う場合の流れは、次のとおりです。
- 施主の了解を得て打ち合わせを録音する:録音の目的と、記録のためだけに使うことを伝えておく
- AIが文字起こしから内容を分類する:要望、決定事項、検討中のこと、宿題(担当と期限つき)に分ける
- 要望一覧に追記する:部屋ごと、テーマごと(収納、動線、断熱、予算など)に、これまでの要望一覧へ追加する
- 担当者が確認する:聞き違い、言葉の意味の取り違え、抜けがないかを確かめる
- 施主に記録を共有する:決定事項と宿題をまとめたメールの下書きをAIが作り、担当者が確認して送る
ポイント
施主の言葉には、「明るいリビング」「広めの玄関」のように、人によって受け取り方が変わる要望が多くあります。AIには、こうしたあいまいな要望を「次回確認すること」として拾い出させると、打ち合わせの準備に役立ちます。どう解釈して設計に落とし込むかは、建築士が施主と話して決めます。
要望一覧がそろってくると、打ち合わせのたびに過去の記録をさかのぼる手間が減り、担当が変わったときの引き継ぎもしやすくなります。施主ご夫婦で意見が分かれている点や、予算との兼ね合いで保留になっている点も一覧に残しておくと、次の打ち合わせで何から話すべきかがはっきりします。
施主への説明文と提案資料は、AIが専門用語を言いかえて下書きする
設計の考え方や図面の意味を、建築に詳しくない施主にわかりやすく伝えるのは、設計事務所の大切な仕事です。一方で、図面に添える説明文や、案を比べる資料を一から書くのは負担が大きく、所長が夜に書いていることも少なくありません。
AIには、建築士のメモや図面の説明をもとに、次のような下書きを作らせられます。
- プランの説明文:なぜこの配置にしたのか、暮らしの中でどう使えるのかを、専門用語を避けて書く
- 複数案の比較表:A案・B案の違いを、広さ、動線、採光、費用への影響などの観点で並べる
- 用語の説明:「容積率」「建ぺい率」「斜線制限」など、施主から聞かれやすい言葉の短い説明
- 設計の進め方の案内:基本設計、実施設計、確認申請、工事監理といった流れと、施主に決めていただくことの一覧
- メールの返信案:施主からの質問への返信の下書き
気をつけたいのは、AIが「この断熱で光熱費が必ず下がります」「地震に絶対に強い家です」のように、断定や約束に聞こえる表現を書いてしまうことです。設計者の説明は、施主にとっては約束と受け取られることがあります。性能や費用に関わる表現は、根拠があるかを建築士が確認し、言い切れないことは言い切らない書き方に直してください。
コンペや提案の資料でも、AIはコンセプトの文章の言いかえや、資料の構成案づくりに使えます。ただし、デザインの考え方そのものは事務所の強みであり、AIの案をそのまま使うのではなく、建築士が自分の言葉で仕上げることをおすすめします。
法規の下調べと数量の拾い出しは、AIを補助に使い、必ず原文と図面で確かめる
法規・条例の下調べの補助
敷地ごとに、建築基準法だけでなく、都市計画、地区計画、自治体の条例、景観のルールなど、確認すべき決まりが変わります。AIは、敷地の条件を伝えると、調べるべき項目の洗い出しや、手元にある条文・資料の要点の整理を手伝えます。
ただし、法規の調べものでAIを使うときは、次の点を必ず守ってください。
- AIの答えをそのまま使わない:AIは、古い情報や、それらしい誤った条文を答えることがあります
- 原文を確認する:法令や条例は、公式に公開されている原文で確かめる
- 行政の窓口に確認する:自治体ごとの運用や解釈が分かれるところは、担当窓口や確認検査機関に確認する
- 適合の判断は建築士が行う:AIの整理は下調べの補助にとどめる
法令や条例は改正されることがあり、地域によって運用も異なります。最新の情報は公式サイトや行政の窓口で確認してください。
図面からの数量・部材の拾い出しの補助
概算の費用を出すときや、施工者に見積を依頼する前の確認では、図面や仕様書から数量や部材を拾い出す作業が発生します。AIには、図面のデータや仕様書をもとに、部屋ごとの面積、建具の数、仕上げの種類などの一覧の下書きを作らせられます。
ポイント
図面の読み取りは、AIが誤りやすい作業です。寸法の読み違い、記号の取り違え、拾い漏れが起こることを前提に、AIの一覧は担当者が図面と照らし合わせて確認してください。どの図面のどの版から拾ったのかを一覧に残しておくと、確認と修正がしやすくなります。
変更履歴の管理と、AIに任せてはいけない判断
変更履歴の管理
設計の途中では、施主の要望や予算、法規の確認結果によって、プランが何度も変わります。どの打ち合わせで、何を、なぜ変えたのかがわからなくなると、図面への反映漏れや、施主との行き違いが起こります。
AIを使うと、打ち合わせ記録やメールから変更点を拾い出し、次のような一覧にまとめられます。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 日付・きっかけ | どの打ち合わせ、どのメールで出た変更か |
| 変更の内容 | 何をどう変えたか(例:収納の位置、窓の大きさ、仕上げの種類) |
| 理由 | 施主の要望、予算の調整、法規の確認結果など |
| 影響する図面 | 直す必要がある図面や書類 |
| 状態 | 施主の承認の有無、図面への反映の有無 |
この一覧があると、施主に「いつ、なぜ変わったのか」を説明しやすくなり、設計費や工期に関わる変更の相談もしやすくなります。施主の承認と図面への反映の確認は、担当者が行います。
AIに任せてはいけない判断
建築士が必ず自分で判断すること
- 構造の安全性(構造計算の結果や部材の大きさの判断)
- 避難や防火など、人の安全に関わる計画
- 建築基準法や条例への適合の最終判断
- 確認申請の書類の内容と、提出してよいかの判断
- 施主との契約内容、設計費、工事費に関わる約束
AIは便利な道具ですが、間違いを含むことがあり、その結果の責任は事務所と建築士が負います。AIの役割は、建築士が判断するための材料をそろえることだと考えてください。
設計事務所でAIを始める順番と、図面データ・施主の情報の扱い
設計事務所でAIを取り入れるときは、次の順番をおすすめします。
- 一番時間をとられている仕事を1つ選ぶ:打ち合わせ記録、施主への説明文、変更履歴の管理のうち、所長や担当者の残業の原因になっているものから始める
- 手本をそろえる:これまでの打ち合わせ記録、要望一覧、説明資料、施主へのメールの例を集める
- AIに任せない範囲を決める:構造・安全・法適合の判断、確認申請の内容、施主との約束は建築士が行うと決めておく
- 人が確認する形で始める:最初はAIの下書きをすべて人が確認し、直した点をAIへの指示に反映する
- 慣れてきたら次の仕事に広げる:記録の整理が回り始めたら、説明資料、法規の下調べ、数量の拾い出しへと広げる
設計事務所が扱う図面データは、施主の住まいや店舗の間取り、防犯に関わる情報を含む、社外秘の情報です。施主の氏名や住所、家族構成、資金計画なども、外に出してはいけない情報として扱う必要があります。
図面データと施主の情報を扱うときのチェックリスト
- 入力した情報がAIの学習に使われない設定や契約のサービスを選んでいる
- 個人で契約した無料のAIサービスに、図面や施主の情報を入れないと事務所で決めている
- AIに渡す情報は、作業に必要な範囲にしぼっている
- 打ち合わせの録音は、施主の了解を得てから行っている
- 施主に届く文章や資料は、確認しないまま自動で送らない
- 個人情報の扱いについて、最新の情報を公式サイトで確認している
当社が提供する「AI社員」では、今お使いのメール、ファイルの置き場所、打ち合わせ記録や要望一覧の形式に合わせて、記録の整理、説明文の下書き、変更履歴の一覧づくりなどの仕組みを組み立てます。施主に届く前に必ず人が確認する流れを前提に設計し、導入後の調整や相談も月額の中でお受けしています。料金は初期費用+月5万円(保守・相談・メンテナンス無制限)で、初期費用はヒアリング後にお見積もりします。構築期間は内容によって2週間程度から1か月程度が目安です。設計以外の仕事に時間をとられていると感じていましたら、どの仕事から任せられるかを一緒に整理しますので、お気軽にご相談ください。
よくある質問
設計事務所の打ち合わせ記録をAIで作れますか?
施主の了解を得て録音すれば、文字起こしから要望・決定事項・宿題を整理した記録の下書きをAIで作れます。聞き違いや抜けがないかは担当者が確認してから施主に共有してください。
建築の法規チェックをAIに任せても大丈夫ですか?
調べるべき項目の洗い出しや条文の要点整理といった下調べの補助には使えますが、AIの答えをそのまま使うのは避けてください。原文と行政窓口で確認し、法への適合の最終判断は建築士が行います。
図面から数量を拾う作業はAIでできますか?
面積や建具の数などの一覧の下書きを作る補助には使えます。図面の読み取りは誤りや拾い漏れが起こりやすいため、担当者が図面と照らし合わせて必ず確認してください。
所員が数名の小さな設計事務所でもAIを入れる意味はありますか?
あります。少人数の事務所ほど、所長や担当者が設計と事務の両方を抱えており、打ち合わせ記録や説明文の下書きをAIに任せるだけで、設計に向き合う時間を増やせます。