RAG(検索拡張生成)とは?——社内の資料をもとにAIに答えさせる仕組みと、中小企業での使いどころ
結論
RAG(ラグ、検索拡張生成)とは、AIが質問に答える前に、社内のマニュアル・規程・商品資料などから関係する部分を探し出し、その内容をもとに回答を作る仕組みのことです。AIがもともと知らない自社の情報について、根拠となる資料を示しながら答えさせられるため、社内の質問対応や問い合わせへの回答案づくりに向いています。
株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、RAG(検索拡張生成)とは何か、仕組みと中小企業での使いどころについて解説します。生成AIに自社の商品や社内ルールについて質問しても、AIはその会社の情報を知らないため、一般論で答えたり、もっともらしい作り話をしたりします。そこで、「自社の資料をもとに答えさせる方法」としてよく名前が挙がるのがRAGです。ただ、言葉は聞いたことがあっても、どういう仕組みで、何ができて何ができないのかはわかりにくいものです。この記事では、RAGの意味と仕組み、普通の生成AIやAIの追加学習との違い、中小企業での使いどころと注意点を、AI社員を提供している当社の立場から説明します。
RAGとは「資料を探してから答える」AIの仕組み
RAGは、英語の Retrieval-Augmented Generation の頭文字をとった言葉で、日本語では「検索拡張生成」と訳されます。少し難しい言葉ですが、中身は次の3つの段階に分けると理解しやすくなります。
- 探す(検索):質問を受けたら、あらかじめ登録しておいた社内の資料の中から、質問に関係がありそうな部分を探し出す
- 渡す(拡張):探し出した資料の部分を、質問と一緒にAIに渡す
- 答える(生成):AIは、渡された資料の内容をもとに、質問への答えを文章にする
たとえるなら、何でも知っているわけではない新人が、質問されるたびに社内のマニュアルを開いて該当ページを探し、その内容を読んでから答えるようなものです。AIが自分の記憶だけで答えるのではなく、手元の資料を確認してから答えるので、自社に特有の内容にも答えられるようになります。
ポイント
RAGで答えの質を左右するのは、AIの賢さよりも「探す」段階の精度です。必要な資料が正しく見つからなければ、AIはよい答えを作れません。
普通の生成AI・追加学習(ファインチューニング)との違い
自社の情報をAIに使わせる方法には、RAGのほかに、AIそのものに追加で学習させる「ファインチューニング」という方法もあります。違いを表にまとめます。
| 比べる点 | 普通の生成AI | RAG | 追加学習(ファインチューニング) |
|---|---|---|---|
| 自社の情報 | 知らない | 答えるたびに資料から探して使う | 学習させた内容を覚えている |
| 情報の更新 | できない | 資料を差し替えればすぐ反映される | 学習のやり直しが必要 |
| 答えの根拠 | 示せない | どの資料のどこをもとにしたか示せる | 示しにくい |
| 向いている使い方 | 一般的な文章の作成や要約 | 社内の質問対応、規程やマニュアルにもとづく回答 | 決まった文体や形式での出力をそろえたいとき |
| 中小企業での始めやすさ | すぐ使える | 資料を整えれば始めやすい | データの準備や費用の負担が大きくなりやすい |
中小企業で「自社の資料をもとに答えさせたい」という場合は、まずRAGで考えるのが一般的です。資料の更新がすぐ反映されること、答えの根拠を示せることは、業務で使ううえで大きな利点です。
RAGが得意なこと・苦手なこと
RAGは便利な仕組みですが、何でもできるわけではありません。
得意なこと
- 就業規則や経費のルールなど、社内の規程についての質問に答える
- 商品の仕様や料金、よくある質問について、資料にもとづいて答える
- 過去の問い合わせ対応や議事録の中から、似た事例を探して示す
- 答えと一緒に「どの資料のどこに書いてあるか」を示す
苦手なこと
- 資料に書かれていないことへの回答:資料にない内容を聞かれると、AIが推測で答えてしまうことがある。「資料にない場合は、わからないと答える」よう設定しておく
- 資料どうしが食い違っている場合:古い版と新しい版のマニュアルが両方登録されていると、どちらをもとに答えるかが不安定になる
- たくさんの資料をまたいだ集計:「今年の問い合わせのうち、返品に関するものは何件か」のような数を数える質問は、RAGより集計の仕組みのほうが向いている
- 表や図が中心の資料:複雑な表や図面は、資料の形によっては正しく読み取れないことがある
中小企業でのRAGの使いどころ
10〜50名規模の会社でRAGが役立ちやすいのは、次のような場面です。
| 使いどころ | 使う資料の例 | 効果 |
|---|---|---|
| 社内の質問対応 | 就業規則、経費精算のルール、業務マニュアル | 総務や先輩社員が同じ質問に何度も答える手間が減る |
| お客様からの問い合わせへの回答案 | 商品資料、料金表、よくある質問、過去の対応履歴 | 担当者がすぐに回答の下書きを用意できる |
| 営業・提案の準備 | 過去の提案書、導入事例、商品の比較表 | 似た案件の資料をすぐに探せる |
| 新人の教育 | 業務マニュアル、研修資料 | 新人が気軽に質問でき、教える側の負担が減る |
お客様への回答に使う場合は、AIの答えをそのまま送るのではなく、担当者が確認してから送る「下書き+人の確認」の形にすることをおすすめします。資料の読み違いや、資料にない内容の推測が混ざる可能性があるためです。
RAGを導入する前に整えておきたいこと
RAGの答えの質は、登録する資料の質で決まります。導入の前に、次の点を確認しておきましょう。
RAGを導入する前のチェックリスト
- 答えのもとにする資料が、ファイルとしてそろっている(紙だけの資料は読み取りが必要)
- 古い版の資料を取り除き、最新の版だけを登録できる
- 資料ごとに、内容に責任を持つ担当者が決まっている
- 社員全員に見せてよい資料と、一部の人だけが見られる資料を分けている
- 資料が更新されたときに、登録し直す手順が決まっている
- 入力したデータが学習に使われない、法人向けのサービスや設定を選んでいる
特に見落とされやすいのが、見られる範囲の設定です。人事評価や給与の資料が誰でも検索できる状態で登録されると、AIが質問に答える形で、見せてはいけない情報を伝えてしまうおそれがあります。
RAGは「作って終わり」ではなく、資料を育てる仕組み
RAGを入れたあとは、使われ方を見ながら改善を続けることが大切です。
- 答えられなかった質問を記録する:AIが「わからない」と答えた質問は、資料に足りない部分を示している。資料を書き足す材料にする
- 間違えた答えの原因を調べる:資料が見つからなかったのか、資料が古かったのか、AIが読み違えたのかを確かめて、それぞれに手を打つ
- よく聞かれる質問を資料に反映する:同じ質問が多いなら、マニュアルのその部分をわかりやすく書き直す
当社のAI社員でも、社内の質問対応やお客様への回答案づくりに、この「資料を探してから答える」仕組みを使うことがあります。初期費用+月5万円で、資料の追加や更新、答えの質の調整といった運用後の作業にも対応しているため、使いながら資料と仕組みを育てていくことができます。
よくある質問
RAGとチャットボットは何が違うのですか?
チャットボットは会話の形で答える道具の呼び方で、RAGはその中で使われる「資料を探してから答える」仕組みの名前です。RAGを使ったチャットボットもあれば、決まった答えを返すだけのチャットボットもあります。
RAGを使えば、AIは間違えなくなりますか?
資料にもとづいて答えるため間違いは減りますが、なくなるわけではありません。資料の読み違いや、資料にない内容の推測が起こりうるため、お客様に出す回答などは人が確認してください。
どんな資料を登録できますか?
文書ファイルやPDF、表計算のファイル、過去のメールなど、文字として読み取れる資料の多くを登録できます。紙の資料や複雑な表・図は、読み取りの方法を工夫する必要があります。
社外秘の資料を登録しても大丈夫ですか?
入力したデータが学習に使われない法人向けのサービスや設定を選び、資料ごとに見られる人の範囲を決めておくことが前提です。人事や給与など限られた人だけが見るべき資料は、別に扱います。