安全性・社内ルール公開日

AIを使った業務でミスが起きたら責任は誰にある?——お客様への責任の考え方と、社内の分担・委託契約・発生時の対応の備え

結論

AIを使った業務でミスが起きた場合、お客様や取引先に対しては、AIを業務に使った会社自身が責任を負うと考えて備えるのが基本です。「AIが間違えた」は、お客様への説明としては通りにくいためです。そのうえで、社内では「誰が確認し、誰が承認するか」を業務ごとに決め、外部に仕組みづくりを頼む場合は委託先との責任の範囲を契約で確かめておくことが、ミスへの一番の備えになります。

株式会社MEDISITE 執行役員・AI事業責任者の吉村聡一郎が、AIを使った業務でミスが起きたときの責任の所在と、社内の分担・委託契約・発生時の対応の備えについて解説します。AIを業務に入れようとすると、「もしAIが間違えて、お客様に迷惑をかけたら誰の責任になるのか」という心配が出てきます。経営者の方から、導入前によくいただくご質問の一つです。結論から言えば、AIの間違いをゼロにすることはできないため、「ミスが起きる前提で、責任の所在と対応を決めておく」ことが大切です。この記事では、お客様に対する責任の考え方、社内での責任の分け方と承認者の決め方、外部の委託先との契約で確認しておきたいこと、ミスが起きたときの対応手順を順に説明します。なお、法的な責任の判断は個別の事情によって変わるため、具体的な案件では弁護士などの専門家にご相談ください。

お客様に対しては「AIを業務に使った会社」が責任を負うと考えて備える

AIを使って作った見積書に誤りがあった、問い合わせへの回答で間違った案内をした、といったミスが起きたとします。このとき、お客様から見れば、相手はあくまで「その会社」です。お客様はAIと取引をしているわけではないため、「AIが間違えました」と説明しても、多くの場合は納得していただけません。

そのため、AIを業務に使うときは、「AIの結果を使ってお客様に何かを出した以上、その結果には自社が責任を持つ」と考えて備えるのが基本です。これは、社員が作った書類に誤りがあったときに、社員個人ではなく会社として対応するのと同じ考え方です。

関係基本の考え方備えておくこと
お客様・取引先に対してAIを業務に使った会社が対応する社外に出す前の確認と、ミスが起きたときの対応手順
社内で確認・承認の役割を決めた人が、決められた範囲で責任を持つ業務ごとの確認者・承認者と、確認の範囲
外部の委託先に対して契約で決めた範囲で、委託先にも対応を求められる場合がある責任の範囲、不具合への対応、保守の内容を契約で確認

なお、AIの仕組みに不具合があった場合に、仕組みを作った会社やAIを提供する会社にどこまで責任を求められるかは、契約の内容や事情によって変わります。法的な判断は断定できないため、重要な取引で使う場合は、事前に専門家に相談しておくと安心です。ここで大切なのは、「誰かのせいにできるか」よりも、「お客様への影響をどう防ぎ、起きたときにどう対応するか」を先に決めておくことです。

社内の責任は「AIに任せる範囲」と「人が承認する範囲」を分けて決める

社内で責任があいまいになりやすいのは、「AIが作ったものを、誰がどこまで見たのか」がはっきりしないときです。担当者は「AIが作ったから大丈夫だと思った」、上司は「担当者が見たと思った」となれば、ミスは素通りしてしまいます。

これを防ぐには、業務ごとに「AIに任せる範囲」と「人が承認する範囲」を分けて決めておきます。考え方の例は次のとおりです。

業務の例AIに任せる範囲人が承認する範囲承認者の例
見積書の作成過去の見積と単価表からの下書き金額・数量・条件の最終確認営業の責任者
問い合わせへの返信返信文の下書き約束になる内容(納期・価格・可否)を含む返信担当者、内容によって上長
受注書の入力読み取りと入力読み取りに自信がない項目の確認事務担当者
社内向けの資料の要約要約の作成原則不要(重要な判断に使う場合のみ確認)—

ポイントは、「社外に出るもの」「お金や約束に関わるもの」ほど、人の承認を必須にすることです。反対に、社内だけで使う要約やメモまで細かく承認を求めると、手間が増えてAIを使う意味が薄れます。影響の大きさに合わせて、承認の重さを変えてください。

ポイント

承認者は「役職」ではなく「その内容を判断できる人」で決めます。金額の妥当性なら営業の責任者、法令に関わる表現なら担当の管理職など、確認する中身に詳しい人を承認者にすると、確認が形だけになりません。

人の確認をどのように業務の流れに組み込むかは、「AIの間違いを防ぐ『人の確認』はどう組み込むか」の記事で詳しく説明しています。

外部に仕組みづくりを頼むときは、契約で責任の範囲を確かめる

AIの仕組みを外部の会社に作ってもらう場合は、ミスや不具合が起きたときに委託先がどこまで対応するのかを、契約の前に確認しておくことが大切です。後から「そこは対象外です」と言われないよう、次の点を確かめてください。

  1. 何を作り、何を保証するのか:仕組みの範囲と、どの程度の精度や動作を目指すのか。AIの性質上、間違いをゼロにする保証は通常できないため、「どこまでを目標とし、どう確かめるか」を確認します
  2. 不具合が起きたときの対応:止まった、明らかに誤った動きをした、といった場合に、どのくらいの時間で、どこまで対応してもらえるのか
  3. 導入後の調整・保守の内容:精度が落ちたときの見直しや、業務の変化に合わせた修正が、保守の範囲に入っているか
  4. データの扱い:預けたデータをどこに保存し、誰が見られ、契約終了後にどうするのか
  5. 損害が出た場合の取り決め:委託先の責任の範囲や上限がどう定められているか。内容は契約によって大きく違うため、重要な業務では専門家に確認してもらうと安心です

当社の「月5万円のAI社員」では、月5万円の中に保守・相談・メンテナンスを無制限で含めています。導入後に「間違いが増えた」「業務の形が変わった」といったときに、その都度追加の費用を気にせず相談できる形にしているのは、ミスへの備えを導入後も続けるためです。どの会社に頼む場合でも、導入後の調整がどこまで含まれているかは必ず確認してください。

ミスが起きたときの対応手順を、起きる前に決めておく

どれだけ備えても、AIを使った業務でミスが起きることはあります。そのときに慌てないよう、対応の手順を事前に決めておきます。基本の流れは、社員のミスへの対応と大きくは変わりません。

  1. 影響を止める:誤った内容が社外に出ているなら、まず追加で広がらないようにします。必要に応じて、AIの自動処理を一時的に止め、人の作業に切り替えます
  2. お客様に連絡する:会社として誤りを認め、正しい内容と今後の対応を伝えます。「AIのせいで」と説明するより、自社の確認が足りなかったこととして伝えるほうが信頼を損ないにくくなります
  3. 原因を調べる:AIの読み取りや判断の誤りなのか、元の資料やデータが古かったのか、人の確認が漏れたのかを切り分けます
  4. 再発を防ぐ:AIへの指示や参照する資料を直す、確認の範囲を広げる、承認者を見直すなど、原因に合わせて手を打ちます
  5. 記録して共有する:何が起き、どう直したかを記録し、関係する社員に共有します

ポイント

AIの自動処理を止めたときに、人の手で業務を続けられる手順も残しておいてください。「AIが止まったら誰も作業のやり方が分からない」という状態は、それ自体が大きなリスクです。

原因を調べるためには、AIが「何を読んで、何を出したのか」が後から確認できることも大切です。処理の記録が残る仕組みにしておくと、ミスが起きたときの切り分けが早くなります。

連絡の窓口と判断する人を先に決めておく

ミスに気づいた社員が、誰に知らせればよいか分からずに時間がたってしまうと、影響が広がります。「AIを使った業務で誤りに気づいたら、まずこの人に知らせる」という窓口と、「自動処理を止めるかどうかを決める人」を、あらかじめ決めて社内に伝えておいてください。外部の委託先がいる場合は、委託先への連絡方法もあわせて決めておくと、原因の調査と修正を早く始められます。

AIのミスと責任についてよくある誤解と、実際の考え方

AIのミスと責任については、導入前のご相談の中で、いくつかの誤解をよく耳にします。誤解のまま進めると、備えが足りなかったり、反対に慎重になりすぎてAIを使えなかったりします。代表的なものを整理しておきます。

よくある誤解実際の考え方
AIが間違えたのだから、自社の責任ではないお客様から見れば相手は自社です。AIの結果を使った以上、自社として対応する前提で備えます
AIを作った会社に頼めば、責任もすべて引き受けてもらえる委託先の責任の範囲は契約で決まります。間違いをゼロにする保証は通常難しいため、自社側の確認も欠かせません
人が確認すれば、AIのミスは確認者個人の責任になる確認の範囲や手順を決めるのは会社です。個人に押しつけるのではなく、仕組みとして確認と承認を決めておきます
責任が心配なら、AIを使わないほうが安全人の作業にもミスは起きます。影響の小さい業務から始め、確認の仕組みとあわせて使えば、ミスを減らすことにもつなげられます
一度ルールを決めれば、あとは見直さなくてよい業務の変化やAIの更新で、起きやすい間違いも変わります。ミスや気づきが出たら、確認の範囲や承認者を見直します

特に最後の「見直し」は大切です。導入直後は承認を厚めにし、間違いが少ないと分かった作業から確認を軽くしていく、という進め方が現実的です。最初から確認を省いて問題が起きると、社内でAIへの信頼が一気に下がってしまいます。

人の作業と比べて考える

AIのミスを心配するときは、「今、人がやっている作業ではミスが起きていないか」もあわせて見てください。手入力の転記や、急いで書いた返信にも、一定の割合で間違いは起きています。AIに下書きを任せ、人は確認に集中する形にすると、人が一から作業するよりも見落としが減る場合もあります。責任の問題は、「AIか人か」ではなく、「どの仕組みなら一番ミスを防ぎやすいか」で考えることをおすすめします。

責任の所在を明らかにするための社内ルールチェックリスト

ここまでの内容を、社内ルールとして決めておきたい項目にまとめました。AIの利用ルールを作る際に、あわせて確認してください。

AIのミスに備えて決めておくこと

  • AIを使う業務ごとに、AIに任せる範囲と人が承認する範囲を決めている
  • 社外に出るもの・お金や約束に関わるものは、人の承認を必須にしている
  • 承認者を、内容を判断できる人で決めている
  • AIが何を読み、何を出したかの記録が残る
  • ミスが起きたときの連絡先と対応の手順を決めている
  • AIの処理を止めても、人の手で業務を続けられる手順がある
  • 外部の委託先と、不具合への対応・保守・データの扱いを契約で確認している
  • 重要な取引で使う場合、責任の範囲について専門家に相談している

AIの利用ルール全体の作り方は「AIの社内ルール(利用規定・ガイドライン)の作り方」、お客様の情報を扱うときの注意は「顧客情報・個人情報をAIで扱うときの注意点」の記事で説明しています。

「どの業務なら、どこまでAIに任せてよいか」は、会社や業務によって答えが変わります。当社では、業務の流れを伺いながら、AIに任せる範囲と人が確認する範囲を一緒に決めるところからお手伝いしています。導入前の不安の整理だけでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

AIが間違えてお客様に損害が出たら、誰が責任を負いますか?

お客様に対しては、AIを業務に使った会社が対応すると考えて備えるのが基本です。仕組みを作った会社などにどこまで責任を求められるかは契約や事情によって変わるため、具体的な案件では専門家にご相談ください。

AIが作った書類のミスは、確認した社員の責任になりますか?

社員個人の責任にするより、会社として確認と承認の仕組みを決めておくことが大切です。誰がどの範囲を確認するかをあらかじめ決めておけば、責任があいまいになるのを防げます。

AI導入を外部に頼むとき、契約で確認しておくことは何ですか?

作るものの範囲、不具合が起きたときの対応、導入後の調整・保守の内容、データの扱い、損害が出た場合の取り決めを確認してください。特に導入後の調整がどこまで含まれるかは重要です。

AIのミスを完全になくすことはできますか?

AIの間違いを完全になくすことは難しいため、ミスが起きる前提で備えることが大切です。社外に出る前の人の確認、処理の記録、発生時の対応手順を決めておくことで、影響を小さくできます。

執筆・監修

吉村 聡一郎の写真

株式会社MEDISITE 執行役員/AI事業責任者

吉村 聡一郎

株式会社アシロ(東証グロース市場)で営業統括責任者・新規事業開発責任者を経験。2022年、株式会社MEDISITEの創業メンバーとして参画し、AI事業・営業支援事業を統括。

  • AI導入・AI研修
  • 営業・新規事業

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